イヌの尿にケトン体が出たときの注意点について

ケトン体とは、アセト酢酸、アセトン及びβ-ヒドロキシ酪酸を合わせたものですが、実は、尿試験紙ではほとんどアセト酢酸しか検出していないことをご存じでしょうか。アセトンは不安定なので蒸発したり、呼気中から排泄されてしまったりするため、尿試験紙では微量しか検出できません。また、β-ヒドロキシ酪酸においては、尿試験紙では全く検出すらしてくれないのです。こういったことを知らずに尿検査を行っていた先生方もいらっしゃるかもしれません、今回は、イヌの尿にケトン体が出たときの注意点として、その原因と、関連する病気についてお伝えします。

ケトン体が尿中に出る原因

ケトン体が尿中に見られるということは、体内に「蓄積された脂質」をエネルギー源として利用していることを意味します。もう少し補足すると、正常な状態であれば、食餌から「得られる糖質」をエネルギー源として利用しますが、それができずに蓄えられたものを消費してなんとか生きながらえている状態だということです。脂質の分解が起こるとアセチルCoAが蓄積し、脂質合成系あるいはクエン酸回路で使われずにケトン体になって血中に増加します。そして、血中のケトン体の増加に伴って、尿中にも排出されてしまいます。

ケトン体が関連する病気

ケトン体が尿中に出る原因からも推測されるように、長期間糖質が利用できない状態にある病気ならそれに該当しますが、臨床上、遭遇する機会が多いのは糖尿病、飢餓及び絶食です。飢餓や絶食は稟告から判断することは可能ですが、糖尿病に関しては糖尿病性ケトアシドーシスに至っているかどうかで必要な治療が異なってくるため、特に重要な病気だと言えるでしょう。

まとめ

ケトン体が尿中から検出されるケースは、年間を通してもそこまで頻度が多くないかもしれません。しかし、今回お伝えしたように、ケトン体が検出されるということはかなりの異常事態を意味しますので、見逃してしまうとその動物が命を落としてしまう可能性が高くなってしまいます。また、尿中にケトン体が排出されていることを分かったとしても、その意味を正しく理解するためには、検査結果と症状が合致しているかどうか、その他の検査と組み合わせて総合的に判断することが必要です。

どの検査にも限界があり、特異度、感度ともに100%の検査はありません。検査の原理から限界を理解し、その他の検査や症状と組み合わせて総合的に判断する臨床力も、獣医師には求められることを忘れてはいけません。

獣医師B

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