糖尿病性ケトアシドーシスとは限らない!ケトン体が尿に出る理由

尿検査は体全体の変化を教えてくれる非常に有用な検査であり、その検査項目とその意義をしっかり理解しておくことも大切です。
今回はケトン尿についてのお話です。
ケトアシドーシスだけではない、ケトン尿への理解を深めてみましょう。

ケトン体は脂肪の分解産物

ケトン体は、脂肪の分解によって発生する物質です。
糖尿病性ケトアシドーシスだけでなく、脂肪の分解によってエネルギーを得る状況になると、ケトン体が作られ尿に排泄されます。

体のエネルギーとなるものには、糖、炭水化物、脂肪がありますが、最も効率よく使いやすいエネルギー源は糖(グルコース)です。体にグルコースが十分にあり、グルコースを利用できる状況であれば、動物はグルコースを使ってエネルギー源にします。

しかし、グルコースが利用できない以下の2つのケースでは、たんぱく質や脂肪を分解してエネルギー源とします。

1.インスリンが不足している場合
インスリンはグルコースを細胞内に取り込ませる働きがあります。糖尿病などでインスリンが不足すると、細胞内へのグルコースの取り込みが少なくなり、細胞内のエネルギー不足が起こります。その結果、たんぱく質や脂肪を分解してエネルギーを作り出します。

2.糖が不足している場合
血液中の糖が少なくなると、糖以外の栄養素でエネルギーを作る必要が出てきます。そこで人や動物の体では、体の中の糖が不足すると、タンパクや脂肪分を分解してエネルギー源とします。

以上のような脂肪が分解される状況になると、体内でケトン体が発生します。
発生したケトン体はエネルギー源として使われますが、体が使えるケトン体には限度があります。
大量に発生して余ってしまったケトン体は、尿に排泄されケトン尿となったり、呼吸中に排泄されたりして独特のケトン臭のある息の原因となるのです。

尿にケトン体が出るときに考えるべきこと

以上のように、糖尿病でなくても脂肪が分解されるとケトン体が体の中で作られます。
つまり、以下のような状況では、体内のケトン体が増加し、尿中ケトンが陽性になります。

糖がうまく使えない
・糖尿病性ケトアシドーシス
・ミトコンドリア病
・糖原病

糖の不足・消費
・飢餓状態
・低炭水化物食(バランスの良くない手作り食)
・長時間の激しい運動
・高熱

その他(偽陽性)
・非常に濃い尿
・フタレイン色素の混入
・スルフィドリル(カプトプリル、バルプロ酸ナトリウム、Dぺニシラミン、チオプロニン、シスチン)の投与
・アスピリンの投与

血液検査や尿検査の他の項目で糖尿病性ケトアシドーシスが疑われる場合には、尿にケトン体が出る原因は糖尿病である可能性が高いでしょう。しかし、尿糖が陰性の場合や血糖値がそれほど高くないにもかかわらずケトン尿が出る場合には、糖尿病以外の上記のような原因も考えてみましょう。

まとめ

動物病院の臨床現場で、糖尿病性ケトアシドーシス以外に尿にケトンが出ることは多くはありません。ですが、ケトン尿=糖尿病性ケトアシドーシスと思い込んでしまうと、時に大きな誤診を招きかねません。
脂肪の分解が促進されるシチュエーションではケトンが産生されやすいということを頭に入れておき、いざ尿検査でケトンが出たときに、飼い主さんにしっかり説明できるように備えておきましょう。

獣医師M

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