ネコの腎性貧血へのESA製剤の使用と、注意したい合併症

赤血球造血刺激因子(Erythropoiesis stimulating agents: ESA)製剤は、現在の臨床現場において腎性貧血治療薬として使用されています。今回は、ネコの腎性貧血へのESA製剤の使用と、注意したい合併症について見ていきましょう。

赤血球造血刺激因子(Erythropoiesis stimulating agents: ESA)とは

赤血球造血刺激因子(Erythropoiesis stimulating agents: ESA)製剤は、骨髄の赤芽球系前駆細胞に存在するエリスロポエチン(EPO)受容体を持続的に刺激することで、安定的かつ持続的な貧血のコントロールをするものです。

日本においてESA製剤は、2011年に腎性貧血を適応症として販売が開始されました。現在の臨床現場においては、腎性貧血治療薬として長時間作用型ESA製剤であるダルベポエチンαが使用されています。

臨床現場におけるESAの活用法について

腎性貧血は、慢性腎臓病(CKD)のネコの30~65%に認められ、CKD進行の独立した危険因子であり、その治療は非常に重要です。そして、ESA製剤療法は腎性貧血を改善し、CKDネコのQOLと代謝機能を向上する目的で使用されています。

ESA製剤の使用開始は、重度の貧血が認められ、貧血が原因と考えられる臨床症状が現れた場合のみです。CKDネコではHt値が20%以下になると、腎性貧血の症状が認められるようになり、食欲不振・虚弱・疲労・無気力・冷感への不耐性、睡眠の増加などの臨床症状が現れるようになります。

ESA製剤の使用において、注意すべき合併症

ESA製剤の使用においては、造血の急速な亢進による鉄欠乏や、Ht値の治療後の上昇により、血液粘稠度が高くなることに伴う血栓塞栓症などの副作用が認められます。特に、ESA製剤を投与したネコで多く発生するのは高血圧で、その発生率は40~50%との報告です。

その発生機序は、貧血による低酸素状態により拡張していた血管が、貧血の改善により収縮することで、高血圧が生じるからと考えられています。また、ESA製剤使用に伴う抗EPO抗体(中和抗体)の出現により、赤芽球癆(PRCA)を発症することもあるため注意が必要です。

まとめ

ESA製剤療法は、腎性貧血の臨床症状である食欲不振や虚弱、無気力などを改善し、CKDネコのQOLと代謝機能を向上してくれます。その一方で、ESA製剤にはさまざまな副作用が報告されており、多様な病態を抱えているすべてのCKDネコに通用するとは限りません。ESA製剤による腎性貧血治療時には、貧血は緩やかなスピードで改善していきます。定期的なモニタリングをしながら慎重に行いましょう。

獣医師C

【参考文献】
山野 茂樹, 猫の腎性貧血における赤血球造血刺激因子(ESA)療法, 日本獣医腎泌尿器学会誌, 2018, 10 巻, 1 号, p. 30-35