イヌとネコの尿路感染症における薬剤耐性菌とその対策

近年、薬剤耐性菌が急増しており、イヌやネコなどの伴侶動物の薬剤耐性菌保有率も上がってきています。
伴侶動物の薬剤耐性菌は、時にヒトの健康を害することもあるため、ヒトと動物と環境の健康を守るワンヘルスの観点からも重要な問題となります。
今回は、尿路感染症における薬剤耐性菌とその対策について考えてみましょう。

大腸菌による尿路感染とその薬剤耐性

泌尿器疾患に占める尿路感染症は比較的多く、治療のために抗菌薬を使うケースは少なくありません。
尿路感染が疑われるイヌやネコの尿培養検査によって検出される細菌のうち、大腸菌(E.coli)が約1/3を占めると言われており、腸内細菌の泌尿器感染症は非常に多いと考えられています。

E.coliの薬剤感受性についての報告はいくつかあります。
例えば、日本感染症学術雑誌に載った2017年の論文によると、イヌやネコの泌尿器感染から採取されたE.coliのうち、約2/3がアンピシリンに耐性を示し、約半数がセファゾリン、オルビフロキサシン、エンロフロキサシンなどに耐性を示しているというデータが出ています。

また、近年腸内細菌で基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase)を持つ菌(ESBL)が増えてきており、動物のESBL産生菌には、ニューキノロン系への耐性率が顕著に高いという報告もあるのです。

これらの事実は、動物病院で比較的よく使う広域スペクトルの抗菌薬への耐性菌が、伴侶動物へと広範囲に広がっていることを示唆しています。

ニューキノロン系の抗菌薬による薬剤耐性の特徴

WASAVAの2014年世界会議で発表された報告によると、エンロフロキサシン5mg/kgを2週間投与すると、その後にエンロフロキサシンだけでなく、テトラサイクリンやセフェム系の抗菌薬に対する多剤耐性菌が検出される傾向にあるようです。また、ニューキノロン系の抗菌薬の投与により、多剤耐性菌の発生が高まる可能性も示唆されています。

さらに、アモキシシリンに対する耐性は投与中止後3週間程度で正常化するのに対し、ニューキノロン系の抗菌薬への耐性は長く続く傾向にあるとも言われています。

尿路感染症への認可がおりた動物薬も多く、薬剤分布の観点や投薬のしやすさから、イヌやネコの尿路感染症には第一選択薬としてニューキノロン系抗菌薬を使う獣医師も多いと思われます。
しかし、ニューキノロン系の抗菌薬は耐性菌ができやすいだけでなく、多剤耐性菌を作り出したり、耐性菌の長期生存を許しやすかったりという側面があることを理解して使う必要があるでしょう。

薬剤耐性菌を増やさない治療を行うための方法

長期的で広い観点からだけでなく、目の前の動物の治療という現実的な問題からも、耐性菌を作らず尿路感染症を治療することは大切です。尿路感染症における耐性菌の発生を防ぐために推奨されている治療法は、以下の通りです。

  • 尿路感染症の原因となる基礎疾患の治療を
    クッシング症候群、糖尿病、膀胱結石など尿路感染を起こす基礎疾患を探し出し、尿路感染と同時に治療する。
  • 臨床上問題にならない細菌尿はモニターを
    尿に菌が見られた場合でも、その数が少なく、臨床上の問題が起きていない場合には、抗菌薬の必要性を再考し、場合によっては抗菌薬を投与せず経過をモニターしていく。
  • グラム染色での菌の分類による抗菌薬の選択
    グラム染色はリアルタイムに院内でできる検査です。
    グラム陽性か陰性か、桿菌か球菌かである程度原因となる菌が推測でき、それにより効果の高そうな抗菌薬の選択が可能になります。
  • 緊急時以外には細菌培養と薬剤感受性試験を
    抗菌薬のやみくもな使用は、薬剤耐性菌を生み出す原因となります。
    時間に余裕がある場合には、感受性試験を行ったうえで抗菌薬を選択するようにしましょう。
  • 多剤耐性の問題を引き起こしやすいニューキノロン系の抗菌薬は、その使用の是非をしっかり検討する
  • 使用期間や薬用量をしっかり守り、中途半端な抗菌薬の使用はしない

まとめ

尿路感染症の治療には抗菌薬が欠かせません。
しかし、抗菌薬をやみくもに使用すると、薬剤耐性菌を蔓延させる原因となってしまうこともあります。適切な抗菌薬の使用には、手間や費用がかかってもグラム染色や薬剤感受性試験などの検査が有効となります。

特に、動物病院でよく使う抗菌薬への耐性菌が増えてきているということを理解し、その使用に関して今一度考える機会にしてください。

獣医師K

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