日本でも毎年発生!急性腎不全を引き起こすレプトスピラの治療方法とは

日々診察をしていると、時には病気の診断・治療に悩むこともあるでしょう。そんな病気の中でも急性腎不全は緊急治療が必要な病態で、その原因によって治療法が変わってくるため、素早い診断と治療法の選択が必要になります。

急性腎不全の原因の一つであるレプトスピラ症は、人獣共通感染症という側面もあり、迅速な診断および治療が重要になる病気です。

日本でも年間20~30例の報告(実際の発生はもっと多い可能性)がある、イヌのレプトスピラ症。最近発表されたレプトスピラの治療例の報告をもとに、その診断と治療について考えてみましょう。

レプトスピラ症の症状

レプトスピラは、数日~1週間の潜伏期ののち、発熱や黄疸、嘔吐などの症状が急激に進行します。肝臓・腎臓・血液が侵されるため、血液検査では黄疸や肝酵素・腎臓の数値の上昇、貧血、白血球増加症などが認められることが多いです。

今回ご紹介するのは、レプトスピラ症と診断され、回復したポメラニアン(2歳)とラブラドール(4歳)の2症例ですが、2頭とも黄疸と貧血、発熱、虚脱などの症状を起こしました。今回の症例では、その他にレプトスピラ症ではあまり一般的ではないブドウ膜炎による角膜混濁も報告されています。イヌのブドウ膜炎の鑑別診断にも、レプトスピラ症を頭に入れておいた方が良いかもしれませんね。

レプトスピラ症の診断は、身体検査、血液検査、予防歴などをもとに、最終的には血清学的診断によって下されています。日本にも、レプトスピラの抗体価検査やPCRによる遺伝子検査を行う動物の検査機関がありますので、症状や臨床所見からレプトスピラが疑わしい場合には、血液や尿などで検査を依頼して確定診断することになります。

報告例のレプトスピラ症の治療方法

上記の2症例はともに回復しましたが、数日の間は横臥状態という危険な状態が続いたようです。

発症から回復までに行った治療は、
・生理食塩水およびコロイド溶液の静脈点滴
・アモキシシリン・クラブラン酸の静脈注射(15mg/kg BID)
・プレドニゾロンの経口投与(0.5mg/kg 5日間、その後0.25mg/kg 3日間)
・その他(抗血栓療法:アスピリン、抗酸化療法:ビタミE・ビタミC・N-アセチルシステイン)
などです。

さらには、オンダンセトロン・パントプラゾール・鉄剤・シルマリン・オルニチン・ラクツロースなどの投与も行いました。

この2症例は、治療開始5日目くらいから改善傾向を示し、その後順調に回復したようです。2週間のアモキシシリン・クラブラン酸投与後に、腎臓へのレプトスピラ潜伏感染対策としてドキシサイクリンを2週間投与して治療終了となっています。

レプトスピラ症治療の考察

一般的な成書では、レプトスピラを発症したイヌの治療には、補液と抗生剤(ペニシリン系)の投与などが推奨されています。また、ペニシリン系の抗生物質投与後14日間のドキシサイクリン投与が、潜伏感染を予防するために有効だと言われています。

今回紹介した治療例を見ると、炎症が強い場合には、プレドニゾロンの投与が有効である可能性があります。また、ベータラクタマーゼ阻害薬を配合したアモキシシリン‐クラブラン酸は、レプトスピラの重症例への投与を検討する価値があるでしょう。日本では動物用の注射薬は販売されていませんが、レプトスピラの発生が多い地域では揃えておいた方が良いかもしれません。また、アモキシシリンはSID~BIDで使うことが一般的ですが、QIDでの使用も検討されています。

この2症例では、抗生物質による治療以外に、抗酸化療法や抗血栓療法なども行われています。ヒトのレプトスピラ症では、活性酸素の増加や抗酸化物質の減少などの報告があり、レプトスピラの合併症を防ぎ、回復を早める方法として、抗酸化療法も有効である可能性があります。

レプトスピラ症の動物を治療する際には、尿や血液のエアロゾルから感染することがあるので、ゴーグルや手袋、ディスポの防護衣をつけることが推奨されています。また、二次感染の予防として、石けんによる手洗い、熱湯(50℃10分)や次亜塩素酸による犬舎や器具などの消毒も重要です。

まとめ

急性腎不全を引き起こすレプトスピラは、人獣共通感染症であるということからも正確で迅速な診断・治療が必要になります。頻繁に診察する病気ではないからこそ、出会った時にしっかり診断・治療できるよう、レプトスピラに関する知識をアップデートしておくようにしましょう。

獣医師K

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