糖尿病性ケトアシドーシス~ポイント整理~

糖尿病の合併症にはさまざまなものがありますが、特に注意したいのが糖尿病性ケトアシドーシスです。早期に治療に入らないと命に関わり、集中管理が必要な状態になります。また、一度ケトアシドーシスを離脱できても再度ケトアシドーシスに陥ることもあり、獣医師にとって非常に悩ましい病態です。今回は、糖尿病性ケトアシドーシスの症例で気をつけなければならないポイントを解説します。

血糖コントロールよりも輸液を優先する

糖尿病性ケトアシドーシスの治療を始めるなら、最優先すべきは静脈内輸液です。主目的は組織の脱水改善、組織還流の改善、そして電解質バランスの補正です。インスリンを投与しなくても、輸液療法による希釈作用とGFRが増加することで血糖値の低下が期待できます(ただしケトン体の希釈作用は輸液療法だけでは不十分)。

治療を開始して最初の24時間に使用する輸液剤の第一選択は、生理食塩水です。その最大の目的は、輸液にリンを添加するためです。リンゲル液にはカルシウムが含まれているため、ここにリンを添加してしまうとリン酸カルシウムが析出して輸液が白濁してくるため注意しましょう。

糖尿病性ケトアシドーシスで来院する症例は重度の脱水を呈していることが多いため、通常よりも輸液速度を上げる必要があります。初期は60-100ml/kg/hrで開始することもありますが、咳、呼吸数の増加や努力性呼吸、浮腫や腹水など水分過剰に関連した症状が出ていないか、こまめなチェックが必要です。また、呼吸器や循環器に併発疾患を持つ症例ではより慎重な輸液管理が必要になります。輸液を開始し、動物が水和されて十分な尿量が確保され、電解質バランスが補正されてからインスリン投与を開始します。

必ずリンとカリウムを補充する

インスリンはブドウ糖とともにカリウムとリンを細胞内に取り込ませます。そのため、カリウム補正やリンの補給が不十分なうちにインスリン投与を開始してしまうと、重篤な低カリウム血症や低リン血症に陥る危険があります。2.0mEq/l未満の重度の低カリウム血症は筋肉や心臓の機能低下を招き、1.5mg/dl未満の重度の低リン血症は急激な溶血性貧血の原因になります。そのため、糖尿病性ケトアシドーシスの治療では必ずリンとカリウムを補充しましょう。

まとめ

糖尿病性アシドーシスの症例の場合、かなり悪い状態で来院することが多く、発見自体は難しくはありません。しかし、治療は非常に難しい病態です。また、安易にインスリンを投与するとより状態が悪化することもあるため、正確に状態を見極め、必要な治療を適切に行うように心がけましょう。

獣医師H

【日本獣医生命科学大学】ネコの糖尿病と膵炎の治療

【松波 登記臣先生】症例報告:血糖コントロールに苦慮した大型犬の糖尿病の場合~1回目~