【日本獣医生命科学大学】ネコの糖尿病と膵炎の治療

ネコの糖尿病の治療の流れ

今回はネコで多い、膵炎を併発した場合の糖尿病治療のお話です。

 

糖尿病のネコの初期症状として、脱水、元気消失、食欲不振および嘔吐などの症状がある場合、糖尿病性ケトアシドーシスを疑います。その場合、尿中にケトン体が出ているかを確認します。

 

治療としては生理食塩水(カリウムやリンの添加)による点滴で脱水の補正と、インスリンの静脈内投与による血糖値の低下を試みます。その後は血糖値が下がり、脱水も改善し、食欲が戻れば、一定量の食事を与え、さらに皮下からの持効型インスリン(プロジンク、ランタス、レベミル、トレシーバなど)の投与に移行します。

 

食欲が戻らなければ生理食塩水およびインスリンに加えて、5%ブドウ糖液もさらに点滴し、グルコースインスリン療法を行い、食欲が出るまで継続します。

 

ネコの糖尿病に膵炎が併発した場合の治療の流れ

以上が一般的な初診の糖尿病ネコの治療の流れなのですが、膵炎を併発している場合は非常に厄介になります。

 

膵炎の一番の治療法としては輸液療法となります。これには膵臓の血流量を上昇し、炎症を和らげる働きがあります。
そのため心臓、肺および腎臓などに明らかな異常がなければ昼夜を問わず点滴を流し続けることが最善の治療法となります。

 

また、嘔吐や下痢がなかなか治まりません。
これに対してはマロピタントの投与、ファモチジンの投与およびメトクロプラミドの持続点滴を行い、嘔吐を何とか必死に制御します。

 

食事は半日から1日ほどは絶食しますが、嘔吐がないのであれば徐々に少量から開始をします。

 

入院している間は血糖値が150-300mg/dLを維持できるよう、生理食塩水、5%ブドウ糖液およびインスリンの持続点滴の流量を調整します。

 

膵臓に激しい炎症があり、上記の治療で症状の改善がみられない場合はプレドニゾロンの投与を行います(ネコの場合のみ)。

プレドニゾロンというと糖尿病の動物には血糖上昇の副作用があるので禁忌と考えられています。
しかしながら、ネコの膵炎では投与することにより顕著な改善が認められることが多く、獣医師の判断で使用することも検討していただきたいです。

 

ちなみにプレドニゾロンを投与すると、必要となるインスリン量は約1.3~2.0倍となることが多いと思います(著者の経験より)。

 

ネコの糖尿病と膵炎の症例報告

本記事を書くちょうど1か月前に、重度の膵炎と血糖コントロールが安定しないということで13歳の去勢雄のネコが来院しました。

 

症状は食欲廃絶と重度の脱水、嘔吐、腹部の痛みおよび衰弱が認められました。ホームドクターにて膵炎の再発を何度も繰り返しており、本学にて膵臓領域での混合エコーが認められました(図1)。

図1.膵臓領域での超音波画像

 

この症例には生理食塩水と5%ブドウ糖液の点滴(カリウムやリンを添加)とインスリンの持続点滴を5日間昼夜にかけて行いました。

また血糖値は100-300mg/dLとなるよう持続点滴からのインスリン量を調整しました。

それに加えて上記の制吐剤、痛み止めとしてブトルファノールおよびプレドニゾロンを投与し、2日目から強制給餌を開始しました。

 

すると5日目から自力での食事が可能となりました。
8日目まで日獣大に入院し、その間も静脈から点滴を入れ続けました(食事を自力でとれるようになってからは乳酸リンゲルの静脈内投与)。

 

その後はホームドクターに戻り、食事と皮下からの持効型インスリンによる血糖コントロールのモニタリングを続け、輸液剤としては乳酸リンゲルを皮下点滴で継続してもらっています(ホームドクターにて徐々に回数を減らしていく)。

 

このように糖尿病に膵炎が併発し入退院を繰り返すような症例は多く存在し、治療にはかなりの期間(最低でも1週間は入院)がかかり、様々な薬剤を併用しながら徐々に治療することが多くあります。かなり費用が掛かることでもあります。

 

我々獣医師には、根気強く初期治療を行い、そして改善した後も継続的にモニタリングが必要である難しい病気であるといえるでしょう。

ネコの糖尿病と膵炎 治療のポイントまとめ

1.膵炎の治療で一番大事なことは輸液剤をしっかりと投与することです。
(できれば静脈投与、できなければ皮下投与)
2.ネコの膵炎ではプレドニゾロンの投与を検討します。
(インスリンが効きにくくなるのでインスリン投与量の上昇でカバー)
3.糖尿病のコントロールが悪く高血糖になると、多尿→脱水→膵臓の血流量低下→膵炎の再発の悪循環を招く可能性があります。
膵炎治療後も糖尿病コントロールの悪化が起こらないように細かく継続的にモニタリングする必要があるでしょう。

日本獣医生命科学大学 森昭博、左向敏紀

 

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