インスリノーマは膵β細胞で発生した腫瘍であり、血糖値にかかわらずインスリンが過剰に分泌されてしまいます。その結果、低血糖が起こり、様々な症状が見られます。フェレットに見られる腫瘍性疾患の中で最も発生率が高いのがこのインスリノーマであり、臨床の現場でも遭遇する機会の多い病気の一つです。今回は、インスリノーマの症状、診断および治療について解説します。
インスリノーマの症状と診断
インスリノーマに罹患したフェレットの症状として、嗜眠、流涎、脱力、前肢で口を掻く、痙攣、後肢のふらつきによる匍匐前進などが挙げられます。
診断はこれらの臨床症状と空腹時低血糖（60mg/dL以下）から仮診断し、治療を開始します。敗血症や飢餓状態など、低血糖を示す疾患を除外しておくことが必要です。犬のインスリノーマで使用される血中のインスリン濃度の測定やウィップルの三徴は、臨床現場では補助的にしか使用されません。
インスリノーマの治療法
治療法は外科的治療と内科的治療、および食事療法に大別され、これらの組み合わせまたは単独で行います。
外科的治療
病変部を完全切除できる可能性はほとんどありません。根治的治療ではなく、低血糖の改善を目的に実施することになります。しかし、内科的治療と比較して生存期間の延長が期待できることから、麻酔や手術の負担に耐えられる状態なら外科的治療が推奨されています。完治は期待できないため、術後は内科的治療および食事療法に移行していきます。
内科的治療
内科的治療の目的は、低血糖による症状のコントロールにあります。抗癌剤などインスリノーマの進行を抑制する方法がないのが現状です。使用する薬剤としてはプレドニゾロンが一般的ですが、肝機能障害や様々な副作用から、用量の調整や、ジアゾキシドを併用することもあります。
食事療法
食事療法の目的も低血糖による症状のコントロールにありますが、外科的治療や内科的治療を選択した際も併用することでより効果的に管理できます。ポイントは、糖分の多いおやつなどは控え、良質な動物性蛋白質と脂質を含む食餌を中心に構成し、4−6時間おきにこまめに給餌できるよう飼い主さまに指導することです。
まとめ
フェレットのインスリノーマは中〜高齢で発症することが多く、様々な合併症に伴い限られた選択肢の中からベターな治療を選ばざるを得ないことも少なくありません。年齢的に見ても、完治が期待できない手術を希望されない方も少なくありません。それでも「低血糖」さえしっかりコントロールできれば、劇的に状態は改善し、飼い主さまの満足度はかなり高くなると考えられます。
獣医師S
