最新FIP治療|滲出型猫伝染性腹膜炎の診断におけるfAGPの有用性

α1-酸性糖蛋白 (α1-AG)は、急性相反応蛋白の一種で、猫において炎症や腫瘍を検出するスクリーニング項目として注目を集めつつあるマーカーです。今回は、FIPの最新情報として、「FIPの診断における血清猫α1酸性糖蛋白(fAGP)検査の有用性について」という論文を紹介します。

臨床現場で行われている一般的なFIPの診断方法

猫伝染性腹膜炎(FIP)には特異的な臨床症状や検査が存在せず、ひとつの症状や検査で診断することができません。そのため、複数の検査を行い、その検査結果と症状などから総合的に診断することが必要です。

具体的には、症状からFIPが疑われる場合、コロナウイルス抗体価陽性または2週間間隔のペア血清にて抗体価の上昇を確認します。しかし、弱毒性のコロナウイルス感染や免疫機能の衰えなどで十分に抗体が産生できない場合もあります。陰性でも感染が否定できないため、他の症状と合わせた総合的な判断が大切です。

また、腹腔内腫瘍がある場合には、病理組織検査で肉芽腫性炎症を確認します。さらに、腹水や胸水貯留がある場合には、それらの中にコロナウイルスがいるか遺伝子検査を行いますが、ウイルスが陰性でもFIPは否定できません。

FIPの診断におけるfAGPの有用性

今回の論文では、腹水または胸水の貯留を伴い,ウイルス学的にFIPと診断された猫(FIP群)112例と、非FIP群101例における血清中fAGP値を比較しました。その結果、FIP群は非FIP群にくらべてfAGP値が有意に高く、本検査の有用性が示唆されています。

FIPの診断にfAGPを使用する際の注意点

FIP群において、1歳未満では1歳以上にくらべて、fAGP値の有意な上昇が認められました。また、ウイルス抗体価の低い症例ほどfAGP値が高い傾向を示しています。これらを鑑みると、fAGP値によるFIPの診断における判定基準の設定には、猫の年齢や抗体価などの条件を考慮する必要があることがわかります。

まとめ

今回の論文によると、FIP群では非FIP群にくらべてfAGP値は有意に高く、本検査の有用性が示唆されました。ただ、1歳未満の猫やウイルス抗体価の低い猫では、fAGP値が高値を示すため、FIPの診断にfAGPを用いるには、判定基準の設定に猫の年齢や、抗体価などの条件を考慮して判定基準の設定する必要があります。
ある検査会社では、FIP症例58頭、非FIP症例77頭(計135頭)の血清中AGPを統計学的に解析し、FIPが疑われる症例において約93%の確率で、FIPと肯定(診断)できる値(>2,460 μ g/mL)と、否定できる値(< 1,450 μ g/mL)という基準を用いて検査を行っているとのことでした。

この記事が、先生方のFIPの診断の一助になると幸いです。

獣医師Y

【参考文献】
相馬 武久, 工藤 庄平, 照井 潤, 滲出型猫伝染性腹膜炎の診断のための血清猫α1酸性糖蛋白検査の有用性・検討, 日本獣医師会雑誌, 2021, 74 巻, 12 号, p. 799-804

 

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