急性膵炎は、膵臓から分泌される消化酵素が膵臓内で活性化され、膵臓や周りの臓器を消化してしまう疾患です。この記事では、急性膵炎の基礎知識についてお伝えします。
原因
イヌにおける急性膵炎の原因には、肥満、高脂肪食、副腎皮質機能亢進症や糖尿病といった内分泌疾患、そのほか薬物によるものなどが挙げられます。
さらに、遺伝的に脂質代謝異常などがあるミニチュア・シュナウザー、コッカー・スパニエルなどは、膵炎になるリスクが高いとされている犬種です。
一方、ネコの急性膵炎の原因は、細菌やウイルス、寄生虫感染、免疫介在性、薬物などさまざまですが、うち95%は特発性で、原因がはっきりしていないことが多いです。また、ネコにおける膵炎の約90%は慢性膵炎で、急性膵炎は少ないとされています。
症状
イヌの急性膵炎の典型的な症状は、突然の元気消失や、食欲低下、繰り返す嘔吐、強い腹痛です。腹痛が強い場合、「祈りの姿勢」と呼ばれるお尻を上げた伏せのようなポーズをとる場合もあります。
一方、ネコは、イヌのような典型的な症状がありません。あまり動かない、丸くなる、触られるのを嫌がるなど、微妙な症状である場合が多いです。症状だけでは、わかりにくい場合が多いでしょう。
重症例では、全身性炎症反応症候群(SIRS)を起こし、多臓器不全症候群(MODS)、腎不全、播種性血管内凝固(DIC)などに繋がり、命の危険に関わる可能性もあります。また、膵炎が慢性化すると、膵臓の機能が低下することにより、糖尿病や膵外分泌不全といった疾患の原因となることもあるため、注意しておきましょう。
診断
急性膵炎が疑われたら、血液検査や画像診断を組み合わせて、他の病気の可能性を除外しながら、慎重に診断してください。血液検査では、膵特異的リパーゼ(cPL)の上昇が膵炎の診断の指標になります。
ただし、肝疾患や腸疾患、腎不全、クッシング症候群などでも、イヌ膵特異的リパーゼ値(Spec cPL)が上昇するという報告もあるため、白血球数やCRP、肝酵素、尿素窒素、クレアチニンなどの項目の追加し、総合的に膵炎か判断してください。
また、血小板数やFDPを測定することによりDICの存在を確認したり、血液検査結果から膵炎によって他の臓器が障害を受けているかを見たりして、重症度を判定すること重要です。
レントゲン検査で、膵炎の診断はできませんが、そのほかの疾患の除外に繋がります。さらに、超音波検査では、すべての膵炎において膵臓の形態的異常が認められるわけではありません。しかし、黒っぽくモヤがかかって見えたり、膵臓の周りが白っぽく、境界がはっきりしなかったり、コルゲートサインが確認できたりと、併発疾患を確認できるでしょう。
一方、ネコの場合、健康な個体でもネコ膵特異的リパーゼ(Spec fPL)数値が高いことがあるため、診断がさらに難しくなります。確定診断に手術による膵臓の生検が必要となることもあるでしょう。
治療
急性膵炎の治療は、入院管理下で輸液療法を行いながら、必要に応じて抗生剤や鎮痛薬、制吐剤、タンパク質分解阻害酵素の投与が基本です。また、重症度やSIRS、DICなどの合併症の有無により、低分子ヘパリンの投与や輸血も検討してみてください。
近年、急性期膵炎用抗炎症薬である「ブレンダ」が発売され、膵炎の初期に使用することで重症化を防ぐ効果があると言われており、積極的に使用されています。
まとめ
急性膵炎が疑われる場合には、血液検査や画像診断を組み合わせ、ほかの病気の可能性を除外しながら、慎重に診断するようにしましょう。
検査では、膵臓だけに注目せず、全身的に確認して重症度を評価し、適切な検査や治療を行うことが重要です。
急性膵炎の治療は、SIRSやDICまで進行すると、かなり厳しい状態になってしまいます。膵炎が強く疑われる場合は、膵炎の確定診断ができていなくても、重症化を防ぐため、早期に治療を開始するのが良いという声も少なくありません。そのときどきに応じて、しっかり検討してみてください。
獣医師O