高齢ネコの健康診断で「T4は正常」となると安心しがちですが、実はそれだけで甲状腺機能亢進症を否定できるわけではありません。補助的な検査や血圧測定を組み合わせることで、見逃されやすい疾患の早期発見につながります。
そこで今回は、ネコの甲状腺機能亢進症と高血圧における診断のポイントを紹介します。
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ネコの甲状腺機能亢進症と高血圧
甲状腺ホルモン(T4)は、代謝を活性化させる働きを持ちます。
ネコの甲状腺機能亢進症は特に10歳以上の高齢ネコで多く見られ、代謝が亢進することで多飲多尿、食欲亢進、体重減少、嘔吐、活動性の変化などが起こります。
この状態が長く続くと、高血圧や左心肥大、網膜剥離による失明、慢性腎臓病の進行など、深刻な合併症を引き起こすことがあります。
特に高血圧はサイレントキラーとも呼ばれ、初期症状が目立たないまま進行することが多いため、定期的なモニタリングが重要です。
T4が正常な場合
多くの動物病院では、スクリーニングとして総サイロキシン(T4)を測定しますが、甲状腺機能亢進症の早期には、T4が正常範囲内でも症状が現れていることがあります。
また、慢性腎疾患やストレス、あるいは抗菌薬(例:エンロフロキサシン)の影響でT4が一時的に低下することもあり、過信は禁物です。
診断・モニタリングのポイント
以下のような補助的検査を併用することで、より正確な評価が可能になります。
・fT4(遊離T4)の測定
T4が正常でも、fT4が高値であれば甲状腺機能亢進症を示唆します。特に臨床症状が明らかな場合に有用です。
・T3抑制試験
境界症例における診断の補助として、実施されることがあります。
・高血圧の評価
AAFP 2024ガイドラインでは、7歳以上のネコには血圧測定の定期実施を推奨しています。
測定方法としては、Doppler法(超音波血流検出)とHDO(高精度オシロメトリ法)が挙げられます。
まとめ
ネコの甲状腺機能亢進症や高血圧は、見た目では判断が難しく、サイレントに進行していくことが多い疾患です。
T4の数値から診断されることも多いですが、T4の数値だけで安心しないようご注意ください。
特に、高齢ネコの定期健診では、甲状腺と血圧の両面からの評価を行うことが欠かせません。
症状の有無や補助的な検査、血圧測定を組み合わせると、より早期に異常を発見することができるでしょう。
獣医師U
【参考文献】
1. AAFP. 2024 Guidelines on Hypertension in Cats.
2. Mooney CT. “Thyroid disease in cats.” Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 2023.
3. IDEXX. 「猫の高血圧ガイド」https://www.idexx.co.jp
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