膵特異的リパーゼの読み解き方|慢性膵炎の診断と経過観察のポイント

イヌやネコの膵炎は急性だけでなく慢性に経過するケースも多く、診断と長期管理が難しい疾患のひとつです。膵特異的リパーゼは膵炎の診断において広く用いられる指標です。しかし、「数値の揺れ」や「慢性膵炎での安定しない結果」など、臨床的な解釈に迷う場面も少なくありません。そこで今回は、膵特異的リパーゼの活用方法や数値の読み解き方についてご紹介します。

膵特異的リパーゼとは

健康な状態では膵臓に由来するリパーゼ(膵リパーゼ)は、血管の中へ漏出するものは1%未満といわれています。

しかし、膵炎が生じていると膵リパーゼは大量に血液中に漏出するため、この漏出した膵リパーゼをとらえることで膵炎の診断に活用されています。

膵リパーゼの測定には、膵リパーゼ「活性」を測定する方法と,膵リパーゼ「濃度」を測定する方法があります。

リパーゼ・アミラーゼは「活性」を測定しており、リパーゼによって分解された基質を検出しています。しかし、膵臓以外に由来するリパーゼの活性も検出してしまうため、判断が難しい部分がありました。

そこで、より特異度を上げるため、膵リパーゼそのものの「濃度」を免疫学的な方法で検出する「膵特異的リパーゼ」の測定が研究・開発されました。膵特異的リパーゼはイヌやネコにおける膵炎の最も優れた血液マーカーと考えられ、現在では膵炎診断のゴールドスタンダードとなっています。

数値の読み解き方

膵炎診断では、膵特異的リパーゼの測定だけでなく、臨床症状や画像検査・炎症マーカー(CRP・SAAなど)と併せて評価することが重要です。

測定結果の解釈例(VcheckテストcPL/VcheckテストfPLの場合)

測定結果の解釈
基準範囲内 膵炎の可能性を考慮 膵炎の可能性高い
イヌ < 200 ng/mL 200 – 400 ng/mL > 400 ng/mL
ネコ ≦ 3.5 ng/mL 3.6 – 5.4 ng/mL ≧ 5.4 ng/mL

・膵炎の可能性が高い:嘔吐・腹痛・食欲不振など症状の有無を確認し、腹部超音波検査を推奨。
・膵炎の可能性を考慮:慢性膵炎、または急性膵炎の回復期でも見られる値

ただし、正常範囲でも膵炎を完全には否定できないことがあります。脂肪壊死が軽度の場合や、慢性膵炎で限局性病変のときに数値が上がらない例もあるためです。

また、慢性膵炎では数値の揺れが生じやすいため、反復測定による経過観察が診療の精度を高める上で重要です。

これらの揺れを、どう解釈するかが臨床上のポイントになります。

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最新知見:慢性膵炎における膵特異的リパーゼの経過観察

2024年におけるMitchellらの研究では、慢性膵炎のイヌにおいて膵特異的リパーゼを連続測定すると数値の変動が大きいことが報告されました。症状が比較的安定しているイヌでも膵特異的リパーゼが大きく上下するケースがあり、単独の高値=増悪とは限らないという点が示唆されています。

・慢性膵炎では2週間以内でも有意な変動が生じる
・症状や超音波所見と乖離するケースがある
・治療効果判定には単独測定より反復測定による時系列評価が適している

このため、膵炎管理では「臨床症状×超音波×膵特異的リパーゼの推移」を総合的に評価することが重要といえます。

まとめ

膵特異的リパーゼは、膵炎診断におけるもっとも有用なバイオマーカーのひとつですが、慢性膵炎では数値が安定しないこともあるため、単回計測のみでの判断は避ける必要があります。最新の研究でも経過観察の重要性が改めて示されています。臨床症状、腹部超音波検査、炎症マーカーと組み合わせることで、より正確な診断・治療評価につながるでしょう。

獣医師O

【参考文献】

1.Serial monitoring of pancreatic lipase immunoreactivity, C-reactive protein, abdominal ultrasonography, and clinical severity in dogs with suspected pancreatitisMitchellEJ,etal.JVetInternMed.2024.

 

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