全抜歯処置により糖尿病における血糖コントロールが改善したネコの1例

ネコの糖尿病治療には、さまざまな治療法が用いられます。この記事では、抜歯処置により血糖コントロールが改善し、歯周病治療が糖尿病治療の一助となった症例に関する論文をご紹介します。 

症例 

症例は、推定7歳の雑種の避妊雌ネコ、体重4.8 kgです。本症例は、半年前から糖尿病と診断し、グラルギン(ランタス)2IU、SID、皮下投与、加えて食事療法(糖コントロール)で血糖値を維持しています。今回、左側下顎腹側および口唇の腫脹、食欲低下を主訴に来院しました。 

診断 

血液検査では、赤血球数、ヘマトクリット値および血小板の増加と、ALPとフルクトサミンの上昇が認められました。また、口腔内検査により4本の犬歯の挺出と歯預部における軽度から中程度の歯垢と歯石の付着、歯肉の中程度の腫脹と発赤が確認されたため、挺出にともなう歯周病と診断し、全抜歯処置を提案しました。 

経過 

飼い主さまが全抜歯処置を当初希望しなかったため、抗生剤による治療を開始することとなりました。しかし、セフォベシンナトリウム(コンベニア注)投与後、下顎の腫脹は改善したものの、食欲不振は改善されず、体重が減少したため、飼い主に再度インフォームドコンセントを行いました。 

そして、第90病日に全身麻酔下で全抜歯を実施。処置後、食欲は改善し、体重は増加、空腹時血糖値および、フルクトサミンも低下していました。第570病日現在は、食事の嗜好性に問題はあるものの食欲は安定し、血糖コントロールが良好に維持されています。 

考察 

糖尿病を罹患するネコにとって、疼痛や炎症などはインスリン抵抗性を増大させ、血糖値のコントロールを悪化させる要因となると考えられます。また、イヌにおいても歯周病に罹患している糖尿病のイヌが歯周病治療を行うことにより、炎症マーカーが低下し、血糖コントロールが改善したとの報告もあるようです。 

今回の症例においても、歯周病巣からの炎症性サイトカインの産生がインスリン抵抗性を増大させ、血糖コントロールを難しくしていたため、抜歯処置によって血糖コントロールが改善したと考えられています。 

まとめ 

ネコについての本症例は、歯周病治療が糖尿病治療の一助となる可能性があることを示しています。最新の論文に目を通しておけば、治療の選択肢を増やすことができるでしょう。ネコの糖尿病においても、さまざまな治療が論文になっていますので、定期的にチェックしてみてください。 

獣医師I 

〈参考文献〉
佐橋 悠, 佐橋 三和子, 中東 礼子, 北野 優香里, 日笠 喜朗, 全抜歯処置により糖尿病における血糖コントロールが改善した猫の1例, 動物臨床医学, 2021, 30 巻, 4 号, p. 103-106,