黄色い“シロ”さん
気が強いネコのシロさんは、以前、家庭でご家族と仲良くできなかったそうです。
勝手に住み着いたので年齢不詳ですが、推定12−3歳くらいです。
病気になって何かを悟ったのかわかりませんが、性格が丸くなって「触れるようになりました」とのこと。しかし来院時、丸くなっていたのは性格だけではありませんでした。
お腹も丸い。腹水とすごい脾腫でした。
初診時のビリルビンは22mg/dL。耳などは真っ黄色です。
シロさんの病状と治療
そんな黄色い“シロ”さんの肝酵素データは、ALTが1000IU/L以上で、貧血もHt23.7%と結構シビアです。黄疸の原因をさぐるため、さっそく超音波検査を行なってみましたが、肝臓実質が全体的に汚い。胆管壁が肥厚、しかし胆管閉塞はなさそうでした(図1)。きっと肝性黄疸です。
図1.腹部超音波画像
シロさんの腹部超音波像。左は層構造がみえるようになってしまっている胆嚢。肥厚しています。
右は胆嚢から胆管を追ったところ。胆管も著しく肥厚しています。
そして腹水に加え、かなりの脾腫。
オーナーさまはドクターでしたので、データをみていただき病状をありのまま説明しました。
結論として、特に積極的な検査(肝生検とか)や治療を行わず対症療法でいこうということになりました。この肝酵素値では、なかなか厳しいかな、と思っていました。
ここからシロさん、がんばります!
とりあえず化膿性の胆管管炎なら抗菌薬が奏功するかも、と思い、肝臓排泄の抗菌薬としてドキシサイクリンを処方させてもらいました。偶然ですが、これがよかったようです。
なんと貧血が改善。エリスロポエチン製剤も少し使わせてもらいましたが、抗菌薬の効果はすばらしくHt40%くらいをキープできるようになりました。血液塗抹では見つけられなかったのですが、たぶんヘモプラズマがいたということですね。ラッキーでした。
貧血の改善に伴い、脾腫も少しずつ良くなってきました。
ただ、食欲があるのになかなか体重が増えません。fTLIを調べたところ低値。そこで、消化酵素製剤を処方してみることにしました。
糖尿病の発症
ネコの胆管炎は胆管と同時に膵臓や腸にも病変があることが多いとされています。そうこうしているうちに、今度は飲水量が増えてきたとのこと。ドクターであるオーナーさまから糖尿病では?という指摘を受け、さっそく血糖値を調べました。
高い!(378mg/dL)
初診のときには血糖値は問題なかったのですが、膵炎が進行して内分泌機能も低下してしまったようです。その後、グリコアルブミンも30%を超えてジワジワ増加してきました。
こんな症例は基本的にはインスリンの適応だと思います。ただALTは持続的に1000IU/Lを超えていて改善の兆しは見えていませんでした。このままではいずれ肝不全になってしまうでしょう。
オーナーさまはインスリン治療の必要性は理解された上で、インスリン治療を行わないというご判断をされました。血糖値300mg/dL台。グリコアルブミン30%超え。担当獣医師(筆者)としては、また今度も長期的には厳しいだろうな、と思っていました。
しかしシロさんはがんばります!
次の月も、その次の月もシロさんは来院し、ドキシサイクリンと消化酵素を持って帰られました。その間ずっと高血糖で、たくさん食べるわりに痩せ気味ですが、それなりに元気です。オーナーさまは診察の待ち時間に、近くのホームセンターでシロさんの好きそうなご飯を買ってきてくれます。
先日、診察の予約をキャンセルされました。いよいよか、と思っていたら、オーナー様の体調が悪かったとのことでした。シロさんは元気だそうです。現在、初診から10ヶ月を経過、まだまだがんばってくれています。
まとめ
基本的にこんな症例はインスリン療法の適応だと思います。インスリンを投与しないとどうなるか、筆者にとってはよい経験になっています。もちろんシロさんのようにすべての症例がインスリン無しで生きていけるわけではないと思いますし、インスリンを投与した方がQOLも改善されると思います。
でも、体重をなんとか維持して、ケトアシドーシスみたいな状況に陥られなければ、それなりに生きられるものだなぁと感じています。
人間ですと糖尿病になるとさまざまな合併症が出てくるので、厳密に血糖値をコントロールするようですが、高齢の動物ではもう少しゆるいコントロールでも、ケトーシスのリスクを下げて、QOLを向上させればいいのかなぁ、などとも感じています。
図2.シロさんの写真(再診時)。
もう黄疸はとれてキイロさんではありません。でも毛色はシロではなくて結構茶色も入っています。
鹿児島大学 桃井康行