DHAやEPAなどのω3脂肪酸は、イヌやネコの体にとってさまざまなメリットを持つ物質であると考えられています。関節炎や皮膚病などのサプリメントにも含まれており、かなり幅広い病気の予防や治療に使われています。
そんなω3脂肪酸は、腎臓病の進行予防にも有効であると言われており、腎臓病のイヌやネコのフードにも多く含まれているのです。この記事では、ω3脂肪酸が腎臓にとって良いとされる理由やその投与量について考えてみましょう。
ω3脂肪酸が腎臓病にいい影響を与える
イヌやネコの腎臓病が進行する要因はいくつか考えられていますが、ω3脂肪酸が持つ以下のような作用が、腎臓病の進行を抑える可能性があると考えられます。
・抗高脂血症作用
ω3脂肪酸には中性脂肪や悪玉コレステロールの低下作用があると考えられています。実際の腎臓病のイヌでは高脂血症(コレステロールもしくは中性脂肪が高い状態)が引き起こされることが分かっており、高脂血症は腎臓の糸球体の毛細血管の変性を起こし、糸球体高血圧の原因になると考えられています。
糸球体高血圧はネフロンへの負担を大きくし、結果的に腎臓病の進行要因となります。ω3脂肪酸にある抗高脂血症作用には糸球体高血圧を予防し、腎臓病の進行を防ぐことが期待されているのです。
・抗炎症作用
ω3脂肪酸の代表的な働きが、抗炎症作用です。その作用を期待して、ω3脂肪酸は関節炎や皮膚疾患によく使われます。腎臓病の進行要因の一つが、腎臓の炎症だと言われています。ω3脂肪酸の抗炎症作用は、腎臓病の進行も抑えてくれることが期待されています。
・血小板凝集抑制作用
最近の報告によると、腎臓病の進行に血小板による微小血栓が影響していると言われています。先日、猫の慢性腎臓病の治療薬として承認されたベラプロストナトリウムの薬理作用にも、血小板凝集抑制作用が含まれています。
ω3脂肪酸にも血小板抑制作用があり、人では「血液サラサラ成分」などとも呼ばれることがあります。血小板抑制作用は、ω3脂肪酸の腎臓病の進行抑制効果の一つだと考えられます。
ω3脂肪酸の副作用は?
腎臓病の抑制効果が期待されるω3脂肪酸は、あまり副作用について知られておりません。基本的に副作用は非常に少ないと考えられているω3脂肪酸ですが、以下のような副作用の可能性があります。
・下痢・嘔吐
ω3脂肪酸は脂質の一種であり、大量に食べることで消化不良から下痢を起こします。また、消化吸収しきれないω3脂肪酸は腸内細菌の栄養素となり、腸内細菌叢の変化(トランスロケーション)の原因にもなると考えられています。
つまり、ω3脂肪酸の過剰投与は、複数のメカニズムから下痢や嘔吐を引き起こす可能性を持っているのです。
・膵炎
脂質の大量摂取は膵臓へ負担をかけて、膵炎を引き起こすと考えられており、ω3脂肪酸にも同様のリスクがあります。ただし、ω3脂肪酸は適正量であれば抗炎症作用を持っているため、ω3脂肪酸による膵炎のリスクは高くありません。また、人を含めてイヌやネコではω3脂肪酸による膵炎の報告はないようです。
・酸化による劣化
ω3脂肪酸で注意が必要なのが、酸化による劣化です。ω3脂肪酸は非常に酸化しやすい脂質であり、酸化によりその効能が低下するだけでなく、酸化したω3脂肪酸は消化不良を引き起こす原因になると考えられています。
そのため、ω3脂肪酸を含むフードやサプリメントは、開封後時間がたって古くなったものを与えないようにすることが大切です。また、ω3脂肪酸の酸化を防ぐために、ビタミンEやセレンなどの抗酸化剤が一緒に含まれるものを選ぶことも重要になります。
ω3脂肪酸の安全な投与量は?
ω3脂肪酸は、比較的安全性の高い成分だと考えられていますが、上記のような副作用のリスクも存在します。一般的なサプリメントなどの推奨量は、体重当たり50㎎~220mgのω3脂肪酸の量に設定されています。
全米評議会の「犬と猫の栄養必要量」によると、イヌのω3脂肪酸(EPA+DHA)の安全上限量は2800mg/1000kcal(370mg×体重kgの3/4乗)であり、5㎏のイヌでは1240mg、10㎏のイヌでは1日当たり2,080mgに相当します。やはり、体重1㎏当たり200mgを超えない量で与えるのが好ましいようです。
また、ω3脂肪酸はω6脂肪酸との比を考えて与えることも大切だと考えられています。腎臓病初期では、ω6:ω3が0.2~5:1の間に設定すると良いと言われています。フード選びの際にはω3脂肪酸の量だけでなく、ω6脂肪酸との比についても見ておくことも大切です。
まとめ
ω3脂肪酸は、腎臓病だけでなく関節炎や認知症など、高齢になって出てくるさまざまな病気の予防に有効だと考えられています。ω3脂肪酸は比較的安全性の高い物質であり、使いやすいため、さまざまなサプリメントや食餌にも含まれていますが、過剰摂取による副作用や酸化による変性など、使い方には注意が必要です。ω3脂肪酸の作用や注意点をしっかりと理解した上で、効果的に使えるようにしましょう。
獣医師O
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