【日本獣医生命科学大学】腎臓病に関する話題~連載5回目:レニン・アンジオテンシン系の抑制薬と腎臓病

ご好評いただいております、日本獣医生命科学大学 獣医内科学研究室第二 宮川優一先生の連載5回目です。腎臓病に関する様々なお話をお届けしています。

 

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レニン・アンジオテンシン系の抑制薬と腎臓病

 

獣医領域で慢性腎臓病用として認可された初めての薬剤はACE阻害薬であるベナゼプリルでした。最近では、テルミサルタンも腎臓病用として認可されています。
腎臓病用であるということから、すべての慢性腎臓病の患者に投与している例が多いように思えます。
しかし、この薬剤はあらゆる慢性腎臓病に対して有効であると証明されたわけではなく、蛋白尿の抑制にのみ有効とされています。慢性腎臓病のすべてが蛋白尿を生じるわけではありません。
盲目的に同じ治療をすることがよいわけではなく、その病態、進行速度も異なっています。
腎臓病だからこの薬剤を投与するといった短絡的な治療選択は、有害反応やコストといったことから患者、飼い主を苦しめる可能性もあります。

 

 

腎臓病の進展とレニン・アンジオテンシン系

 

レニン・アンジオテンシン系(図1)は、腎臓にとって生理学的に非常に重要なシステムですが、そのシステムが腎臓病の進展と密接に関与しています。

図1. レニン・アンジオテンシン系の概要

慢性腎臓病では、その原因にかかわらず、最終的にはネフロンの数が減少し、進行していきます。
ネフロン数がある一定以上少なくなっていくと、腎臓による体内の恒常性を維持できなくなります(老廃物の蓄積、体液調節の異常)。
そのため、1つ1つのネフロンの機能を向上させることによって、代償しようとします。その代償作用は、糸球体の濾過面積を増大させる糸球体肥大と糸球体濾過を駆動する糸球体内静水圧を上昇させる糸球体高血圧によって達成されます。
この代償作用にアンジオテンシンIIが関わっており、代償作用が長期的になることによって糸球体を破壊することにつながります。
そのため、慢性腎臓病ではレニン・アンジオテンシン系の関与が重要であると認識されるようになりました。

 

薬物療法

 

蛋白尿を生じさせる糸球体疾患では、レニン・アンジオテンシン系の抑制薬の投与が標準的に行われます。
糸球体高血圧が蛋白尿の悪化と関連するために、糸球体高血圧の抑制が蛋白尿の軽減に繋がります。

ヒトでは、ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体薬(ARB)の多くが蛋白尿の軽減効果を持つことが報告されています。
レニン・アンジオテンシン系の抑制は、糸球体疾患での蛋白尿の抑制効果に伴う慢性腎臓病の進行抑制として意義があります。
糸球体疾患の1つであるX連鎖部遺伝性腎症のサモエド犬で行われた研究では、エナラプリルの投与は、蛋白尿の軽減および生存期間の改善を示しています(J Comp Pathol. 1997;117(3):209-25.)。

 

投与に注意が必要な場合

 

糸球体肥大や糸球体高血圧といった慢性腎臓病の悪化要因を考慮すれば、あらゆるタイプの慢性腎臓病に対して、ACE阻害薬およびARBの投与は有益な効果をもたらすことが期待されますが、一方で蛋白尿が重度でない(糸球体疾患ではない)ヒトの患者では、ACE阻害薬やARBの有用性は制限されています。
イヌおよびネコでのベナゼプリルを用いた臨床試験では、いずれも予後の改善は認められていません(J Vet Intern Med. 2006;20(5):1054, 2017;31(4):1113) 。
少なくとも蛋白尿がある(糸球体疾患でなかったとしても)慢性腎臓病の患者に対してのみ、レニン・アンジオテンシン系の抑制薬を投与する正当性があることを示しています。
脱水や腎血流量が低下する状況下では、ACE阻害薬やARBの投与はさらなる腎血流量の低下を招く可能性があることから、すべての患者で盲目的に投与することは問題です。

 

日本獣医生命科学大学 宮川優一

 

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