多発性骨髄腫は、これといって特異的な症状に乏しいため、疑ってさまざまな検査を行わなければなかなか診断にたどり着けません。ベンスジョーンズ蛋白尿は有名ですが、実際に測定したことがない獣医師も多いのではないでしょうか?蛋白尿の一種ですが、一般的な尿試験紙検査では陰性に出てしまうことが多いので、院内での尿試験紙検査で陰性でも多発性骨髄腫を疑うのであれば、ベンスジョーンズ蛋白尿は積極的に調べたほうが良さそうです。
多発性骨髄腫の病態
多発性骨髄腫は、骨髄で形質細胞が腫瘍化し増殖する疾患です。症状としては、骨病変や過粘稠度症候群、出血傾向、高カルシウム血症、腎不全などによる嗜眠、跛行、疼痛、出血、PU/PD、網膜血管病変などがよく認められます。治療法としては、メルファランやプレドニゾロンによる化学療法であり9割ほどの症例で完全寛解あるいは部分寛解が得られています。
多発性骨髄腫の診断法
多発性骨髄腫の診断は、以下の4つ中2つ以上の所見が認められた場合に診断します。
- 骨髄における形質細胞の増加
- 血清中のモノクローナルガンモパチーの増加
- 骨の融解病変
- 尿中のベンスジョーンズ蛋白の出現
その他には、血液検査で慢性疾患あるいは出血、腎不全による貧血が認められることがあります。また、3割近くのイヌでは尿素窒素およびクレアチニンの上昇、1.5割程度のイヌで高カルシウム血症が認められることもあるでしょう。骨融解病変はパンチアウト像としてイヌの半数、ネコでは2割程度で認められています。
ベンスジョーンズ蛋白について
ベンスジョーンズ蛋白は、多発性骨髄腫の3割程度で認められます。腎不全が原因である蛋白尿であれば、尿試験紙検査で蛋白陽性になることがあります。しかし、ベンスジョーンズ蛋白尿は尿中の免疫グロブリン分子の軽鎖が増加し、糸球体を通過することによる蛋白尿であり尿試験紙検査では陰性を示すことが多いです。そのため、尿試験紙検査で陰性であっても多発性骨髄腫の疑いがある場合は、沈殿法や免疫電気泳動法などによる検出が必要になります。
まとめ
多発性骨髄腫は、病名や診断法は有名で知らない獣医師はいませんが、迅速に診断できる獣医師は少ないように感じます。特異的な症状があまりないため疑いにくい疾患ではありますが、診断法は確立されているのでレントゲンで異常が認められたり、腎不全症状や血液検査で貧血や高カルシウム血症などがみられたりした際は疑う必要がありそうです。
獣医師D