【日本獣医生命科学大学】腎臓病に関する話題~連載3回目:蛋白尿と糸球体疾患~

前回、前々回に引き続き、日本獣医生命科学大学 獣医内科学研究室第二 宮川優一先生に動物の腎臓病に関する記事を執筆いただきました。
連載形式で、腎臓病に関する様々なお話をお届けしています。
今回は、蛋白尿と糸球体疾患のお話です。

連載1回目はこちら
https://arkraythinkanimal.com/2018/07/17/mi01/

連載2回目はこちら
https://arkraythinkanimal.com/2018/09/10/mi02/

蛋白尿の重要性と糸球体疾患の治療

 蛋白尿は、慢性腎臓病での重要な診断マーカーですが、蛋白尿が重要である理由は大きく2つあります。
1つは糸球体疾患の存在を示すということ、もう1つは蛋白尿が腎臓病の進行に直接関与するということです。

 UPCで糸球体疾患を評価する

 腎臓の糸球体は、毛細血管として特殊な構造を持っています。糸球体毛細血管は血液を濾過しますが、その際により大きな蛋白質を漏出しないように3層の濾過障壁を持っています(図1)。


図1. 糸球体毛細血管の構造の模式図


最も重要な構造は足細胞と足突起であり、足突起の間にはスリット膜と呼ばれる薄い膜が形成されています。

スリット膜は足突起同士をつなぐように架橋しており、この膜には小孔が空いています。この小孔はアルブミンまたはそれよりも小さな分子の直径に等しいです。蛋白質の透過を防ぐ機構として、このスリット膜が最も重要です。

糸球体疾患は様々な原因で生じますが、糸球体疾患で共通して認められることは糸球体毛細血管への傷害によって、この濾過障壁が破壊され、蛋白が尿中に漏出することです。
そのため、糸球体疾患の診断は蛋白尿を検出することです。

蛋白尿の評価には、尿蛋白:クレアチニン比(UPC)の測定が必要です。
UPCはイヌでは0.2-0.5、ネコでは0.2-0.4がグレーゾーン、>0.5 (ネコで0.4)を顕性蛋白尿とします(表1)。

グレーゾーンの蛋白尿は再検査を必要としますが、尿試験紙では検出できない(陰性または痕跡)こともあります。糸球体疾患で生じる蛋白の漏出は非常に多量であることが多く、UPCは多くの場合で2.0を超えています。0.5-2.0までのUPCでは糸球体疾患か、あるいは尿細管での低分子蛋白(濾過障壁でブロックされない)の再吸収不良(尿細管性蛋白尿という)かを鑑別することは難しいです。

尿細管性蛋白尿は、ファンコニー症候群や急性尿細管壊死などの尿細管傷害や尿細管間質性腎炎で認められることがあります。糸球体では、蛋白尿の出現は疾患の発症初期から出現するため、GFRが低下する(CreやSDMAが上昇する)はるか前から検出することができます。
特にイヌで糸球体疾患が多いため、定期的な尿検査(UPCを含む)の実施は早期診断・早期治療を可能にします。

 糸球体から漏出した蛋白そのものが,腎臓病を進行させます。
濾過された蛋白は尿細管で補足され、再吸収されます。正常な状態では、糸球体で自由に濾過される低分子な蛋白質の多くは尿細管で補足され、代謝・分解されます。しかし、糸球体の傷害によって漏出する蛋白質はそれよりも大きい蛋白質です(アルブミンが主体)。

このような蛋白は尿細管細胞で炎症性サイトカインを誘発し、尿細管間質の炎症、線維化を引き起こしていきます。このことから、蛋白尿そのものがネフロンの破壊を促進する要因となっています。

そのため、糸球体疾患では蛋白尿を減らすことが治療の目的になります。

糸球体疾患の治療

 糸球体疾患では、蛋白尿の寛解(UPC<0.5)が治療の目標です。
治療として一般的に用いられるのは、レニン・アンジオテンシン系の抑制(ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬)および腎臓病用療法食です(J Vet Intern Med. 27 Suppl 1:S27-43. 2013)。

ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬は、蛋白尿の減少を引き起こすことが知られており、すべての糸球体疾患で使用すべき薬剤です。これらの薬剤を用いた場合のUPCの減少は投与後、1~3ヶ月で認められるため、最大3ヶ月は治療を変更せず待つべきです。
ただし、急速にCreが上昇するような進行が速いタイプ、低アルブミン血症や腹水を示すネフローゼ症候群の患者ではこれらの薬剤だけに頼らず、より進んだ治療(腎生検の実施および原因療法、利尿薬の使用など)を実施すべきです。糸球体疾患でのレニン・アンジオテンシン系の抑制薬の投与はあくまで対症療法であり、原因療法ではありません。

糸球体疾患の原因は原発性、二次性と様々ですが、糸球体疾患の多くは免疫複合体の糸球体毛細血管への沈着によって生じます。全身的な感染症で生じた免疫グロブリンや補体成分は、抗原と結合して作用を発揮しますが、この免疫複合体が糸球体内皮下、基底膜、足細胞に沈着します。あるいは、抗原が糸球体に存在する場合にはその場で複合体が形成され、沈着します。これらの複合体はメサンギウム細胞にも取り込まれることがあります。

沈着した補体成分は炎症性サイトカインの誘導を引き起こし、炎症反応を生じさせます。炎症を起こした糸球体毛細血管は濾過障壁の障害をきたし、蛋白尿を示すようになります。このような免疫複合体性の糸球体疾患は原発性または二次性に生じます。

例えば、イヌでは子宮蓄膿症は糸球体疾患の発症と関連し、蛋白尿を発現することがあります。子宮蓄膿症に関連する糸球体疾患での抗原は特定されていませんが、多くは子宮蓄膿症の治癒とともに消失します。
フィラリア症も糸球体疾患の原因となる抗原になります。免疫複合体の沈着かどうかを調べる方法として、腎生検が唯一の方法です。理想的には、糸球体疾患の全ての患者で腎生検を実施すべきでしょうが、小型犬では開腹を必要とする侵襲性の高い検査法であり、コストもかかるため、レニン・アンジオテンシン系の抑制薬でも十分な蛋白尿の減少が見られない患者で行います。腎生検検体での病理組織学的な検査は、光学顕微鏡、電子顕微鏡、免疫蛍光染色で評価する必要があります。そのため、前もって提出する病理医にこれらの検査まで行ってもらえるかどうかを確認する必要があります。免疫複合体が沈着していることが確認できれば、免疫抑制剤の使用が適応となります。残念ながら、現在の獣医療では糸球体疾患のタイプ別に適した免疫抑制剤の使用プロトコルはありません。
この点は今後の研究によって進んでくると思われます。


表1. 尿蛋白:クレアチニン比の評価基準(http://www.iris-kidney.com/index.shtmlより改変)

日本獣医生命科学大学 宮川優一

関連ページ
ネコの腎疾患の症例“慢性腎臓病の治療経過”
https://arkraythinkanimal.com/blog/SH8
イヌの腎疾患の症例“早期発見した場合の治療経過”
https://arkraythinkanimal.com/blog/SH6

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