【いまさら聞けない!シリーズ】常生歯「ハムスター」の歯の病気

本シリーズでは、獣医療関係者の皆さまが、“いまさら聞けないけど気を付けておかなければいけない“項目について、情報提供してまいります。院内の勉強会などで皆さまとシェアいただくなど、ご活用いただけますと幸いです。


ハムスターは草食に近い雑食性であり、切歯のみが生涯にわたって伸び続ける常生歯が特徴で、奥歯は伸び続けません。それに対し、完全草食動物であるウサギは切歯も臼歯も常生歯です。野生のハムスターは、種子や植物を切歯で食べやすい大きさに齧り取りますが、その際に上下の切歯が当たることで削れていきます。これにより、切歯が削れていくスピードと伸び続けるスピードが同じなるため、見た目には伸びていないように見えます。しかし、人工的な飼育環境下では、間違った飼育方法により、切歯の噛み合わせがずれて過剰に伸びてきたり、甘いものを与えることで齲歯になったりするなど、様々な歯の病気が起こってしまうのです。今回は、ハムスターに多い歯の病気や、その原因、治療、予防法についてご紹介します。

歯の病気

不正咬合

ハムスターでは、切歯でのみ起こります。上下の噛み合わせがずれることにより過剰に伸びてしまう症状です。弧を描きながら伸びるため、湾曲した上顎切歯が口腔内に突き刺さることもあります。うまくご飯を食べることができなくなるので、体重も減少していきます。

歯芽腫

歯根部に過剰な衝撃が慢性的に繰り返されることにより、石灰化が起こります。本来は開放性歯根なので、X線検査では黒く写りますが、歯芽腫になると白く写るようになるのです。歯芽腫によって鼻腔が狭窄するため、呼吸困難が見られます。眼球突出が見られることもあります。

根尖膿瘍

歯根部に感染が起こり、膿がたまった状態です。周囲の骨を溶かすこともあります。

齲歯

高齢のハムスターで見られ、臼歯でのみ起こる症状です。X線検査で臼歯が欠損している場合、齲歯による症状だと考えられます。

歯の病気の原因、治療、予防

不正咬合

ケージ内の金網や金属の格子部分を繰り返し齧ることが原因です。治療としては、過長歯を適切な長さに切断します。予防法としては、ケージ内の金網や金属の格子部分をなくし、齧り木など、齧っても大丈夫なものを与えてもらいます。

歯芽腫

原因及び予防に関しては不正咬合と同じです。治療としては抜歯が選択肢となりますが、呼吸状態が悪い中で、しかも全身麻酔となるのでリスクがあります。

根尖膿瘍

原因及び予防に関しては不正咬合と同じです。治療としては、排膿および洗浄と抗生剤の内服を行います。

齲歯

甘いおやつやくだものを多く与えていることが原因です。歯根部が腐って抜け落ちてから発見された場合は無治療となります。甘いものを控え、適切な食事を与えてもらうことが予防につながります。

まとめ

今回ご紹介した歯の病気は、自然界にいるハムスターの場合、一般的に見られる病気ではありません。非常に残念ながら、人間の管理下にあるが故に起こってしまう、いわば「人工的に作られた病気」といっても過言ではありません。しかも、一度なってしまったら完治するのが困難なので、生涯にわたって付き合って行かなければならない病気でもあります。そういう背景からも、予防が第一というより、予防以外に選択肢はない病気であると言えるでしょう。

飼い主さまへ適切な情報提供を行い、注意いただくようにしましょう。

獣医師O