イヌのクッシング症候群に対してトリロスタンを投与した場合の生存期間

クッシング症候群は副腎皮質機能亢進症とも呼ばれ、副腎からグルココルチコイドが過剰に分泌されてしまうことで、さまざまな臨床症状を引き起こします。症状は多飲多尿がもっとも多く、そのほかには腹部膨満や皮膚病変・呼吸促迫・筋力低下などが考えられます。

クッシング症候群は下垂体性(PDH)と副腎腫瘍(AT)によるものに分けられ、80-90%が下垂体性(PDH)です。クッシング症候群の診断やPDH、ATの鑑別では、ACTH刺激試験や副腎のエコー検査・低用量デキサメサゾン抑制試験・高容量デキサメサゾン抑制試験などが行われます。治療は、トリロスタン療法や外科療法が検討されます。

ここでは、PDHと診断されたイヌに対してトリロスタンを投与した場合の生存期間について調査した論文をご紹介します。

論文の概要

PDHに対して、トリロスタンを投与した場合の生存期間に関する論文をご紹介します1)

概要は下記の通りです。

調査方法

PDHと診断された43頭のイヌのうち、トリロスタンで治療した17頭と無治療の26頭の生存期間をレトロスペクティブに調査し、PDHと診断されてから2年後の生存分析を行った。

結果

トリロスタン投与群の生存期間中央値は未到達で無治療群は506日であった。トリロスタン投与群の生存期間は無治療群と比べて有意に長かった。

トリロスタン使用時の注意点

上記で紹介した論文でトリロスタンは、生存期間を有意に延長することが示唆されましたが、PDHでもトリロスタンを投与すべきでない場合も存在します。代表的なものが慢性腎臓病との併発例です。

トリロスタンはグルココルチコイドだけでなくアルドステロンも抑制するため、腎血流量が減少して高窒素血症や電解質異常の悪化を引き起こし、慢性腎臓病を悪化させてしまう可能性があります。クッシング症候群のイヌでは筋肉量の低下によりクレアチニンの数値が低めに出ることが多いため、投与前に慢性腎臓病の確認を行うことがとても重要です。トリロスタンの投与開始後から慢性腎臓病が顕在化してきた場合は、トリロスタンの投与を速やかに中止する必要があります。

まとめ

今回の報告から、PDHに対するトリロスタンの投与はイヌの生存期間を延長する可能性があることがわかりました。そのため、PDHの症例ではトリロスタンの投与が有効であると考えられますが、併発疾患には注意が必要です。

特に慢性腎臓病を併発している場合、トリロスタンの投与は勧められません。そのほかにも併発疾患がある場合はトリロスタンを慎重に投与する必要があるでしょう。

<参考>
1)N. Nagata, K. Kojima, and M. Yuki. Comparison of Survival Times for Dogs with Pituitary-Dependent Hyperadrenocorticism in a Primary-Care Hospital: Treated with Trilostane versus Untreated. J Vet Intern Med. 2017, 31(1), 22-28

獣医師D

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