慢性腎臓病症例におけるFGF-23の有用性について

FGF-23は線維芽細胞増殖因子23の略称です。FGF-23は骨から分泌され、腎尿細管でのリンの再吸収を抑制します。さらに、ビタミンDの合成を抑制することで腸管からのリン吸収も抑制します。

これらの作用により、FGF-23は血中リン濃度を低下させることがわかっており、近年動物の慢性腎臓病の治療指標として注目されています。そこで今回はFGF-23を測定するメリットについてご紹介していきましょう。

慢性腎臓病について

慢性腎臓病は進行性の疾患で、数ヶ月から数年に渡り徐々に悪化し、最終的には尿毒症へ進行していきます。初期にはほとんど症状は見られませんが、進行に伴って多尿や体重減少・脱水・貧血などが見られるようになり、尿毒症に陥ると、乏尿・無尿・神経症状・循環障害などの重篤な症状を示すようになります。治療としては食事療法や輸液、降圧剤や吐き気止めの投与などが実施されます。

FGF-23は血中リン濃度の上昇に先立って上昇する

血中リン濃度が正常な慢性腎臓病のイヌにおいて、血中FGF-23濃度は、その後の高リン血症の発症や慢性腎臓病の進行と関連するか検討した報告1)をご紹介します。

・方法
 血中リン濃度が正常な慢性腎臓病のイヌ42頭を対象にレトロスペクティブに調査した。血中リン濃度5.0 mg/dLを高リン血症とした。

・結果
 血中FGF-23濃度>528 pg/mLでは高リン血症発症までの期間と慢性腎臓病進行までの期間が有意に短かった。このことから、血中FGF-23濃度は血中リン濃度の上昇よりも早期に発現すると考えられる。

FGF-23の評価は食事療法開始時期の決定に有用

慢性腎臓病用の療法食としては、リン制限・低タンパク食が一般的です。しかし、過度なリン制限や低タンパク食は高カルシウム血症や筋肉量減少の原因にもなってしまいます。そのため、慢性腎臓病だからといって、すぐに食事療法を開始すればいいというわけではありません。開始時期の見極めが非常に重要です。

FGF-23は高リン血症発現よりも早期に上昇するため、食事療法の開始を検討する際に有用です。リン濃度が高くなくてもFGF-23が上昇していれば食事療法を開始してもいいと考えられるでしょう。

まとめ

FGF-23は慢性腎臓病の治療指標として注目されており、血中FGF-23濃度の上昇は慢性腎臓病の早期から増加するため、高リン血症の発現と慢性腎臓病の進行を予測する因子として有用である可能性が報告されています。食事療法の開始時期の決定にもFGF-23の測定は有用であると考えられますので、該当する場合に活用をご検討ください。

<参考>
1)Hirosumi Miyakawa, Huai-Hsun Hsu, Mizuki Ogawa, Yuichi Miyagawa, Naoyuki Takemura. Association between serum fibroblast growth factor-23 concentration and development of hyperphosphatemia in normophosphatemic dogs with chronic kidney disease. J Vet Intern Med. 2021, 35(5):2296-2305.

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