酷暑とお盆を前に―イヌ・ネコの熱中症について伝えるべきポイント

8月上旬からお盆にかけては、連日の酷暑に加え、帰省・旅行・来客・長時間の留守番など、家庭内の生活リズムが変わるイベントが重なります。
そのため、ヒトだけではなくイヌ・ネコの熱中症リスクも特に高まりやすい時期です。

熱中症は、重症化すると中枢神経症状、循環障害、消化管障害、腎障害、凝固異常などを伴う可能性がある救急疾患です。
まずは予防が重要ですが、異変にいち早く気づき、適切な初期対応を行い、速やかに来院できるかどうかも予後に影響します。
だからこそ、飼い主さまへ「暑い日は気を付けましょう」以上の、より具体的な行動をお伝えしておくことが大切です。

お盆休みは、熱中症リスクが連続する

お盆の時期には生活環境が普段と変わりやすくなります。
例えば、帰省先までの長距離移動、サービスエリアでの散歩、旅先での外出、親族宅での滞在、ペットホテルの利用、留守番時間の延長などです。
ひとつひとつは日常的な出来事に見えても、暑熱、興奮、運動、飲水量の変化、休息不足が重なることで、体温調節への負担は大きくなります。

特に注意したいのが車内です。
「エアコンをつけていたから」「数分だけだから」「日陰に停めたから」「窓を開けているから」という判断は危険です。
環境省も、気温が高い日にイヌやネコを車内に残さないよう注意喚起しています。
イヌやネコはヒトのように全身から発汗して体温を下げることができず、高温環境に置かれれば短時間でも熱中症に陥るおそれがあります。

また、イヌでは散歩や運動が発症のきっかけとして注目されやすい一方、ネコも決して例外ではありません。
ネコでは、空調が不十分な室内、日当たりの強い部屋、移動中のキャリーケース、換気の悪い車内など、自ら涼しい場所へ移動しにくい環境が問題になります。
お盆の帰省・旅行を控えた啓発では、「イヌのお散歩」だけでなく、「ネコの留守番環境」「キャリー内の温度」「車内放置の禁止」まで伝えることが重要です。

「暑さに弱い子」を具体的に共有する

飼い主さまへの案内では、「高齢のイヌ・ネコは注意」とだけ伝えるよりも、どのような個体でリスクが高いのかを具体化したほうが、行動変容につながります。

イヌの熱関連疾患では、短頭種、肥満傾向のあるイヌ、大型犬、高齢犬、基礎疾患のあるイヌなどで、より慎重な暑熱管理が求められます。
特に短頭種では、上部気道の問題によりパンティングによる放熱が妨げられやすく、暑熱や興奮、運動が重なった際に急速に状態が悪化することがあります。

英国の一次診療データを用いた研究では、イヌの熱関連疾患において、犬種、頭部形態、年齢、体格などがリスク因子として示されています。
また、救急診療データの解析では、短頭種は中頭種と比較して熱関連疾患のオッズが4倍以上でした。

ただし、ここで強調したいのは、「短頭種だけが危ない」ということではありません。
健康な若齢犬であっても、日中の散歩、ボール遊び、ドッグラン、海や山でのレジャーなどをきっかけに発症する可能性があります。
暑い時期には、犬種や年齢だけで安全性を判断せず、気温・湿度、日射、運動量、興奮度、飲水、体調、移動手段を総合的に考えるよう飼い主さまへ伝えるとよいでしょう。

見逃しやすい初期サイン

飼い主さまは、イヌ・ネコがぐったりして倒れるような状態になる前に、熱中症の初期サインを見ていることが多いです。
しかし、「いつもより少し元気がない」「暑いから呼吸が荒いだけかもしれない」と判断して様子を見るうちに、症状が進行することがあります。

イヌ・ネコの熱中症を疑うサインとして、以下のような変化があることを日頃から案内しておくとよいでしょう。

・激しいパンティング、呼吸が苦しそう、呼吸が速い
・落ち着かない、反応が鈍い、歩きたがらない
・よだれが多い、粘膜が赤い・紫色っぽい
・嘔吐、下痢、ふらつき
・横になる、立てない、意識がぼんやりする
・けいれん、虚脱、意識消失

熱中症は、高体温だけではなく中枢神経症状を伴い、多臓器に影響し得る重篤な病態です。
明らかな重症サインが出るまで待つのではなく、「いつもと違う」「暑さの影響かもしれない」と感じた時点で相談するよう促すことが大切です。

「冷やしてから受診」を、正しく伝える

熱中症が疑われたとき、飼い主さまは「すぐに動物病院へ向かうこと」と「先に冷やすこと」のどちらを優先すべきか迷いがちです。
そこで動物病院からは、病院へ連絡しながら、できるだけ早く冷却を開始し、受診につなげるという考え方を明確に伝える必要があります。

イヌの熱関連疾患について、来院前に冷却を実施した症例は少なく、実施しているケースでも濡れタオルを当てる程度の不十分な対応が多く記録されていました。

一方で、効果的な方法としては、冷水を用いた冷却や、体を濡らして風を当てる蒸発冷却が示されています。

冷却開始の遅れは、転帰を悪化させる可能性があります。
飼い主さまには、動物病院ごとの救急対応方針に合わせながら、例えば次のような内容を統一しておくと実用的です。

・まず涼しい場所へ移動する
・動物病院へ電話し、症状と発症状況を伝える
・体に水をかけ、風を当てて冷却を始める
・移動中も可能な範囲で冷却を継続する
・ぐったりしている、意識がおかしい、呼吸が苦しそう、嘔吐や下痢がある場合は緊急性が高い
・一時的に落ち着いて見えても、自己判断で受診を中止しない

重要なのは、「冷却するか、受診するか」の二択にしないことです。
冷却を始めながら受診するという行動を、平時から飼い主さまに理解してもらうことが重要です。

お盆期間の診療時間案内を、命を守るメッセージへつなげる

お盆は多くの動物病院さまがホームページや掲示物などで診療時間の案内を出されるのではないでしょうか。
診療日・診療時間・夜間救急の連絡先だけでなく、熱中症予防のポイントなどを添えてみるとよいかもしれません。
メールマガジン、LINE、SNS、院内掲示、予約確認メールなど、複数の接点で同じ内容を繰り返すことで、飼い主さまの行動につながりやすくなります。

たとえば、以下のような一文です。

『お出かけや帰省の際は、わんちゃんやねこちゃんを車内に残さないようにしましょう。
散歩や運動は暑い時間帯を避け、留守番中も涼しい場所と飲水を確保しましょう。
呼吸が荒い、ぐったりする、ふらつく、嘔吐・下痢があるなど、熱中症が疑われる症状がみられた場合は、まず涼しい場所で冷却を始め、早めに動物病院へご相談ください。』

お盆前の注意喚起が、熱中症の発症予防だけでなく、来院前の適切な初期対応、そして救命の可能性を高めるきっかけになるかもしれません。

獣医師T

【参考文献】
・Caldas GG, da Silva DOB, Barauna Junior D. Heat stroke in dogs: Literature review. Veterinary Medicine (Praha). 2022;67:354–364.
・O’Neill DG, et al. Incidence and risk factors for heat-related illness in UK dogs under primary veterinary care in 2016. Scientific Reports. 2020;10:9128.
・Hall EJ, et al. Cooling Methods Used to Manage Heat-Related Illness in Dogs Presented to Primary Care Veterinary Practices during 2016–2018 in the UK. Veterinary Sciences. 2023;10:465.
・Epidemiology of heat-related illness in dogs under UK emergency veterinary care in 2022.
・環境省.ペットを車内に残さないで!~ペットの熱中症に関する注意喚起チラシの作成について~.