【松波 登記臣先生】症例報告:血糖コントロールに苦慮した大型犬の糖尿病の場合~2回目~

前回の内容はコチラから。

糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシス、膵炎(今の時点で急性/慢性は診断できません)、高脂血症および肝障害が認められたラブラドールのAちゃんの治療を開始していきたいと思います。

治療開始~水和~
私がまず行うのは水和です。
早速レギュラーインスリンを開始したいところではありますが、上記の基礎疾患かつケトアシドーシス状態ですので、脱水補正や電解質補正をインスリン使用前にしっかり行っておきたいと考えています。
以前同じようなケトアシドーシスの症例に速攻でレギュラーインスリン治療をした際に、カリウムやリンが下がってしまい余計に時間とお金を要してしまった経験があります。

まず使用するのは生理食塩水のボーラス点滴(だいたい5-7mL/kg)です。
多めに入れておく理由は、早めの脱水緩和と電解質などの異常を見かけ上だけでも補正したいからです。ケトアシドーシスの症例の殆どに認められるのがナトリウム(以下Na)とカリウム(以下K+)の低下なので、しっかりここでKCLを生理食塩水に添加して補正しておきます。
その後に使用するレギュラーインスリンではリン(以下IP)が下がる傾向にありますが、私は相当凹んでいる症例でしかIPの補正はしたことはありません。
それと生理食塩水のボーラス点滴をする理由はもう1つあります。生理食塩水だけで血糖値が希釈され、血糖値が下がる症例は非常に簡単に血糖コントロールが期待される、というエビデンスがあります。正直当院の場合はセカンドオピニオンか加療中転院などでほとんどおりませんが、そういう論文がありますので一度試されてみても良いのかもしれません。

インスリン治療
そうして4時間位、生理食塩水のボーラス点滴をしましたが、予想通り全く血糖値は下がりませんでしたので(電解質の補正は少し改善しました)、ここからレギュラーインスリンを使用していきます。
一般的にレギュラーインスリンの使用方法は微量点滴もしくは筋肉注射と言われていますが、断然微量点滴の方をおすすめします。万が一低血糖になった場合のことを考えると筋肉注射は私はゾッとします。
糖尿病治療に低血糖は付きもんだと言われる先生方もいらっしゃるかもしれませんが、低血糖の病態は可能な限り起こさないほうが良いというのがヒト医療での糖尿病治療の常識です。震えや歩行困難など急性脳神経異常(交感神経異常)、痙攣発作など中枢神経異常などは絶対避けたほうがいい病態ですので、なるだけ即回復が出来る微量点滴でレギュラーインスリン治療をしてもらったほうが良いと思います。
本症例はケトアシドーシスのため血糖値を無理くり下げる必要性がありますので、私はケトンが消えるまで可能な限りレギュラーインスリン治療で血糖を低い範囲(100~200mg/dL)で長い時間停滞させるように、インスリンも食事も交互にコンビネーションしています。ちなみにレギュラーインスリンの薬用量は、0.05~0.1IU/kg/hourで設定しています。
また勿論ではありますが、他基礎疾患や併発疾患の治療も並行して開始していきます(本症例で使用した薬剤は以下)。

並行治療
膵炎治療にはファモチジンとブトルファノール(腸管蠕動が落ちている時はメトクロプラミドも併用)、高脂血症および肝障害にはウルソデオキシコール酸(中性脂肪血症も併発している場合はクリノフィブラートも併用)を使用しています。個人的には、強肝剤のウルソデオキシコール酸は肝臓におけるインスリン受容体基質への間接的な働きかけをするため、糖尿病治療においてはほぼ使用しています。

治療経過については長くなりますので、次回に続きます。
さらに細かくご紹介させていただきますので、引き続きご覧いただけますと幸いです。

松波動物病院メディカルセンター 松波登記臣

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