イヌ・ネコの腸内フローラ(腸内細菌叢)検査について

近年、ペット保険会社をはじめ、動物病院や企業が健康診断の一環として腸内フローラ検査の提供をはじめています。
この背景には、腸内環境が動物の健康と密接な関係をもつことが明らかになったことや、複雑な腸内フローラを、培養を介さずに次世代シーケンスという手法で解析することができるようになったことがあげられます。

腸内フローラとは

腸内フローラとは、消化器粘膜上で恒常性を保った常在菌の細菌群のことで、共生性の菌と病原性の菌に分類できます。

宿主に有益に働くビフィズス菌や乳酸菌などの共生細菌は「善玉菌(有用菌)」、ブドウ球菌やウェルシュ菌など病原性をもつ細菌は「悪玉菌(有害菌)」、状況によって有益にも病原性にも働く共生細菌は「日和見菌」と呼ばれ、善玉菌:悪玉菌:日和見菌は、2:1:7が理想です。

腸内細菌を門レベルで分類した場合の、主なものを見ていきましょう。

Firmicutes門

割合が最も高い。大部分はグラム陽性桿菌。芽胞形成菌も多い。
比較的善玉寄りの乳酸菌、悪玉寄りのブドウ球菌、ウェルシュ菌などが属する。
肥満に関連している。

Bacteroidetes門

日和見寄りの菌が属していて、多くはグラム陰性桿菌。
減少すると肥満になったり、炎症性疾患を引き起こしたりする。

Proteobacteria門

悪玉寄りの菌が多い。
大腸菌、サルモネラ菌、カンビロバクターなど。
少数なら正常だが、急増は腸内環境悪化のサイン。

Fusobacteria門

ほぼ全種がグラム陰性桿菌。
健康な個体で多く、疾患時に減少する。
健康なイヌ・ネコの糞便中に10〜30%程度含まれる「主要な常在菌」である。

検査の概要

どの検査会社も手順は共通で、少量の便を採取し、保存液に入れて送るというものです。
ここでは、一般的な方法を紹介します。

まず、次世代シーケンスを用いて16SrRNA遺伝子を解析し、腸内フローラを門レベルで大まかに判別します。
16SrRNA遺伝子は、タンパク質合成という生物の核心に関わる遺伝子なので、細菌や古細菌のような原核生物で高度に保存され、進化系統分類の指標といわれます。

16SrRNAには、配列の保存性が高い定常領域と、菌種によって個性が見られるV1~9の可変領域が交互に存在します。
可変領域をPCRで増幅し、配列の違いを解析すればどのような菌がどの割合で存在するのかがわかります。

さらに詳しく菌種の同定をするには、ショットガンメタゲノム解析を使います。
ショットガンメタゲノム解析では、サンプルから直接DNAを抽出した後、DNAをランダムに断片化しゲノム全体を解析するため、種レベルでの同定が可能です。

検査結果の解釈

多様性

多様性が多いと病気にかかりにくくなり、多様性が少ないと病気にかかりやすくなります。

有用菌、有害菌のバランス

有用菌が多ければ、消化吸収がスムーズに行われ免疫力も上がります。
有害菌が多ければ腸内環境が悪化し、便秘や下痢や免疫系の問題が起こることがあります。

F/B比率

肥満の個体では、Firmicutes門の割合が増加し、Bacteroidetes門の割合が減少します。
Firmicutes門の菌は肥満菌といわれ、Bacteroidetes門の菌はやせ菌といわれます。

疾患マーカー

個々の疾患によって指標となる菌が違うのですべてはあげられませんが、例えば慢性腸症の場合、酪酸産生菌が減少し、大腸菌群が増加したりします。

まとめ

腸内フローラ検査はまだはじまったばかりです。
これから普及が進み、データが蓄積されることで、新しい知見が増えるでしょう。
食事・生活・環境指導やプロバイオティクス・プレバイオティクス投与などで腸内フローラを味方につけ、病気の少ない未来になることが期待されています。

獣医師A

【参考文献】
犬猫の腸内細菌の役目を考える - 腸内環境を整えて、感染症に勝つ- 1.犬の腸内細菌解析 Journal of Animal Clinical Medicine, Vol. 28, No. 1, 2019
イヌ・ネコにおけるプロバイオティクスについて ペット栄養学会誌,21(3):158-162,2018
・Pilla R, Suchodolski JS. (2020) “The Role of the Canine Gut Microbiome and Metabolome in Health and Gastrointestinal Disease.” Frontiers in Veterinary Science.

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