ネコの慢性関節炎と糖尿病は全く違う病気ではありますが、高齢で肥満気味のネコが発症しやすく、歩き方の異常を起こすことがあるなど、共通点が多く鑑別に注意が必要な病気です。
症状は似ていても治療は全く異なり、糖尿病を関節炎と勘違いして治療してしまうと非常に危険です。意外と忘れがちな、糖尿病と跛行の関係について、しっかり頭に入れておきましょう。
思い込みに注意!関節疾患と糖尿病の共通症状
「後ろ足がおかしい」という主訴でネコが来院した場合、真っ先に頭をよぎるのは関節疾患ではないでしょうか。もちろんそれは間違いではありませんが、関節疾患だと思い込んでしまうのは危険です。
関節疾患と同じく、中年以降で太り気味のネコが罹患しやすく、後肢の異常を引き起こすことがあるのが糖尿病です。
シグナルメントと症状から関節炎を強く疑う場合、身体検査やレントゲン検査で怪しい所見があると「関節炎で決まり」と思い込んでしまうことは少なくありません。
ただし、そんな時に糖尿病の可能性を頭の片隅にでも思い浮かべるようにしておいてください。
私は、後肢の跛行以外に症状のないネコで、「まさか糖尿病はないだろう・・・」と思っていたら、実は糖尿病だったという症例を経験したことがあります。それ以来、跛行や神経の異常が疑われるネコでは極力血液検査を勧めるようにしています。
糖尿病で歩き方に異常が出る理由
ではなぜ糖尿病では後肢の跛行が出てしまうのでしょうか?その理由は高血糖に伴う「末梢神経障害」にあります。
糖尿病による高血糖が続くと、ソルビトールという物質が蓄積したり、末梢の循環が悪くなったりすることで、末梢神経にダメージが起こると言われています。
ヒトでの末梢神経障害では、しびれが主症状ですが、ネコはしびれという自覚症状を訴えられないため、「歩き方がおかしい」という症状で初めてわかってきます。
歩き方の異常の中でも、踵(かかと)から地面につく「蹠行(せきこう、しょこう)」がある場合には、糖尿病が非常に疑わしくなります。イヌやネコでは、いわゆるつま先歩きの「趾行(しこう)」が正常であり、ヒトやウサギのように踵をついて歩くのは異常です。
通常の関節炎では蹠行が出ることは少ないため、蹠行がある場合には必ず糖尿病を疑ってください。また、蹠行は糖尿病で必発する症状ではないので、「歩き方がどこか変」という場合にも「糖尿病は大丈夫か?」と自問自答するようにしておきましょう。
糖尿病を見逃すと非常に危険
関節炎と糖尿病は、シグナルメントや症状は似ているものの、その治療は大きく異なります。関節炎ではNSAIDsやステロイドを使うことも多いですが、血糖値が高く脱水しがちな糖尿病のネコにこれらの薬剤を使えば病状を悪化させてしまい、非常に危険です。
糖尿病は検査をすれば診断は難しくない病気ですが、検査をしないと診断ができない病気です。歩き方に異常があり「関節炎だろう」と思っていても、糖尿病を否定できていないのであれば、血液検査や尿検査で糖尿病の有無は必ず調べておきましょう。
私たち獣医師自身が検査の必要性をしっかり理解し、それを説明することができれば、ほとんどの飼い主さまからの理解を得ることができるでしょう。
まとめ
跛行は、関節炎を含む筋骨格系の病気や神経系の病気の症状であることが多く、鑑別診断として糖尿病が抜け落ちてしまうことがあります。
糖尿病を見逃して関節炎の治療をしてしまうのは非常に危険ですので、特に後肢の跛行がある場合には、必ず尿検査や血液検査などで糖尿病の有無を確認するようにしてくださいね。
獣医師G
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