高齢のネコが体調不良で来院した場合、腎臓病が頭をよぎる動物病院スタッフは多いと思います。それほど一般的になりつつあるネコの腎臓病は、ステージングや治療指針も打ち出され、治療オプションも増えてきました。
さらに2017年にはベラプロストナトリウムが発売されました。これをどのように使っていけばよいのかを考えていきましょう。
ネコの腎臓病の治療指針
IRISによるネコの腎臓病のステージングが発表され、ネコの腎臓病の治療はかなり進んできています。それほど症状が強くでないような早期の腎臓病(ステージ1~2)の治療指針がはっきりし、長期コントロールも可能になってきました。
以前は脱水改善のための点滴や、高窒素血症予防のための食餌治療が治療のメインでありましたが、タンパク尿や高血圧がある場合には、早期から薬によりそれらの治療をすることで腎臓のダメージの進行を防ぐことが可能になってきています。
2017年に登場したベラプロストナトリウム
そんな投薬治療に新たなオプションが加わりました。それがベラプロストナトリウム(商品名:ラプロス)です。
ベラプロストナトリウムは以下の4つの作用機序により腎臓の保護を行う薬です。
・血管内皮細胞保護作用
・血管拡張作用
・炎症性サイトカイン産生抑制作用
・抗血小板作用
現在のところ、ベラプロストナトリウムはネコの腎臓病(ステージ2~3)に対する認可を得ており、その有効性が確認されています。
従来の薬は、タンパク尿や高血圧を改善することで腎臓のダメージを抑えることがメインの目的でしたが、ベラプロストナトリウムは炎症性サイトカイン産生抑制作用や抗血小板作用など炎症を抑えることで腎臓の保護作用をするという側面があり、その新たな効果に期待の高い薬です。
実際の使用例
ベラプロストナトリウムはACE阻害薬やテルミサルタンなどと適応や使い方が似ており、比較的安定した腎臓病の悪化を防ぎ、維持を目的として使うケースが多いです。
ACE阻害薬やテルミサルタンの代わりに使うことも増えてきました。
私自身、実際にベラプロストナトリウムを使うと、食欲が改善する症例を経験しました。
ベラプロストナトリウムが属するプロスタサイクリン(PGI₂)には胃酸を抑えて胃粘膜の保護作用がありますので、胃酸過多になりがちな腎臓病のネコにもその効果が出ている可能性があります。
また、使用後にBUNやCreなど腎臓の数値が低下する症例も見かけます。ラプロスの販売元である東レのデータでも、ラプロス投与後60日でBUNやCreの平均値が若干低下しているようです。
ただし、ベラプロストナトリウムの使用例はまだ少なく、食欲が低下する症例も一部経験しています。ベラプロストナトリウムを投薬している場合も、定期的な身体検査やモニタリングは必要であり、場合によっては治療方針の変更なども考慮しなければならないケースがあるかもしれません。
まとめ
ネコの腎臓病は非常に多く、たくさんの症例を抱えている動物病院も少なくないでしょう。ベラプロストナトリウムはまだ使われ始めたばかりの薬ではありますが、ネコの腎臓病の新たな治療オプションの一つとして、比較的使いやすい薬ではないかと感じられます。
獣医師T