転院防止のためにも気をつけるべき低血糖リスク管理

糖尿病の治療の目的は、血糖値を正常に近づけ、様々な合併症を防ぐことです。
しかし、そこにばかりこだわり過ぎると、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。
今回は、低血糖発作が転院につながってしまった例についてご紹介します。

低血糖発作を引き起こした小型犬が来院

症例は11歳のMIX犬、5.5kgで、半年前より他院で糖尿病治療をしていたとのことです。

飼い主さまが当院に電話をかけてこられたのが夜7時過ぎ。「明らかにイヌの様子がおかしいが、かかりつけの病院に連絡が付かない」とのことで当院に来院されました。

診察してみると、虚脱状態ではないものの、周囲の刺激への反応が鈍い傾眠状態であり、血糖値を測定してみると38mg/dLでした。20%ブドウ糖液を数mL飲ませるとすぐに元気を取り戻したため、低血糖発作であったことが確認されました。

低血糖のリスク管理不足が招いた転院

そのイヌは、1週間前にかかりつけで血液検査を受けています。

その時の結果が血糖値138mg/dL、糖化アルブミン24%です。血糖曲線も作成したことがあるとのことですが、飼い主さまに確認しても1週間前の採血のタイミングが最低血糖に近いのかそうでないのかは不明でした。
糖化アルブミンはそれほど低くはないものの、もし血糖値がそれ以上下がるのであれば低血糖のリスクがあり、ソモギー(ソモジー)効果などで血糖値が不安定になっている可能性もあります。

かかりつけではそういった説明はなく、インスリンも継続(ノボリン3IU・BID)の指示を受けていたとのことです。
インスリンと食餌の投与は、大体朝晩11時~12時くらいになっており、今回の発作はインスリン投与後6~7時間で起こっています。

そこで、インスリンが効きすぎている可能性を指摘し、夜のインスリンを中止した上で、翌日からインスリンを2IUに減量するように指示をしました。

翌日以降できるだけ早めのかかりつけの受診を指示したところ、翌々日に当院を受診されました。
その際には、同じようなタイミング(最低血糖に近いと思われる時間)の採血で血糖値が168mg/dL。
その後は、飼い主さまの希望もあり当院で診察させていただいておりますが、高血糖・低血糖になることもなく、インスリン2IU・BIDで上手く維持することができています。

転院を防ぐための低血糖のリスク管理

今回のケースは、低血糖に不安を抱いた飼い主さまが転院をしてしまった例です。転院を防ぐためには、以下のような低血糖のリスク管理が必要になります。

血液検査で血糖値が正常に近い場合は注意

糖尿病の動物の血液検査で、血糖値が正常値に近い(150mg/dL以下)のであれば、低血糖に注意が必要です。その値が最低血糖であれば良いのですが、心配であれば再度血糖曲線を作成した方が良いでしょう。
ソモギー効果が原因であることもあるため、たとえ糖化アルブミンやフルクトサミンが低くなくても、低血糖のリスクは否定できません。

低血糖のリスクに対する説明と具体的な指示を

今回の症例では、低血糖のリスクのお話はされていたものの、低血糖時に飲ませるグルコースなどの処方はされていなかったようです。そのため、何をすれば良いか分からず当院に助けを求めて来院されました。

糖尿病の動物の治療をする際には、必ず低血糖の症状・対処法を具体的に指示し、糖液などを処方しておきましょう。
それらの指示は、最低血糖が起きやすい時間帯とともに、紙に書いてお渡ししておくのもおすすめです。

まとめ

糖尿病の治療の理想は、血糖値を正常に近づけることですが、動物の場合には「低血糖を起こさない」ということも大切です。飼い主さまに安心して糖尿病治療をしていただくためにも、低血糖のリスク管理をしっかり行い、低血糖に関するクライアントエデュケーションをもう一度見直してみてくださいね。

獣医師H

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