客観的な評価をするための尿沈渣検査の手技

尿検査には、尿成分の化学的な性状を知るための尿試験紙検査と、尿中に含まれる固体成分を調べる尿沈渣検査があります。尿試験紙検査は、試験紙の色の変化を見て数値で表すことができるため、誰が検査しても同じ評価ができますが、尿沈渣検査はその手技によって結果の解釈にばらつきが出てしまうことがあります。
そこで今回は、オクラホマ州立大学の方法をもとに、客観的な評価をするための尿沈渣検査の手技についてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

尿沈渣検査のチェック項目

尿沈渣検査では、以下のような項目について調べます。
・赤血球:尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)や、生殖器(膣・子宮、自然排尿時)などからの出血の有無
糸球体腎炎、尿石症、膀胱炎、腎臓腫瘍、膀胱腫瘍、子宮蓄膿症、発情出血(イヌ)など

・白血球:尿路や生殖器の炎症の有無
糸球体腎炎、膀胱炎、子宮蓄膿症、膣炎など

・上皮細胞:尿中に出現する尿路や生殖器の細胞
膀胱腫瘍、カテーテル採尿など

・結晶:尿石症や結晶尿

・円柱:腎・尿細管のダメージの有無
糸球体腎炎、腎盂腎炎、急性尿細管壊死など

・細菌:尿路や生殖器の感染症の有無
膀胱炎、子宮蓄膿症、膣炎、混入(自然排尿で採尿から検査まで時間がかかった場合)

・その他:真菌・脂肪滴など

オクラホマ州立大学での尿沈渣標本の作製方法

 客観的な尿沈渣検査を行うためには、常に一定の方法で尿沈渣標本を作製することが大切です。その一例として、オクラホマ州立大学の尿沈渣標本の作り方、手順をご紹介します。

  1. 5~10mLをスピッツ管に入れる(毎回同じ量を入れることが大切)
  2. 遠心機により1500rpm、5分間遠心する
  3. 沈渣成分が舞わないように注意しながら、2~3滴の上清を残して大部分の上清を捨てる
  4. 優しく振るか、指でタップして、沈渣と上清を混ぜる(強く混ぜると円柱や細胞が壊れるので注意)
  5. 沈渣をディスポのチップで吸い、スライドグラスに1滴ずつ2ヶ所垂らす
  6. 片方の沈渣にはそのままカバーガラスを載せ、もう一方には染色液を垂らしてカバーガラスを載せる。
  7. それぞれを観察する。

※染色液を垂らすと、細胞の核の観察には優れるが、希釈されて定量的な検査ができなくなる。また、細菌や真菌、ゴミなどの混入が起こるため、それらの評価には不向き。
より詳細な細胞の観察を行うためには、沈渣をドライヤーで乾かし、ディフクイックなどの染色液で染色する。

尿沈渣標本の評価法

尿沈渣標本は、以下のような基準で評価します。※高倍率(対物レンズ40倍)、低倍率(対物レンズ4倍)

・赤血球:高倍率1視野で5個までの赤血球は正常
注意点:検査までに時間がかかると溶血を起こし、潜血反応があっても赤血球が見えないことあり

・白血球:高倍率1視野で5個までの白血球は正常
注意点:無染色の尿沈渣標本では、白血球と小型の上皮細胞の鑑別が難しい

・上皮細胞:移行上皮細胞や扁平上皮細胞は、カテーテル採尿では正常でも多く見られる
注意点:無染色の尿沈渣標本では細胞の評価は難しい。細胞の評価を行う場合は、乾燥させてディフクイックなどの染色を行う。

・尿円柱:低倍率1視野に2個以内の硝子円柱、1個以内の顆粒円柱は健康な動物にも存在

・結晶
注意点:ストラバイト:尿をカバーせずに保存するとアーティファクトとして出現
    シュウ酸カルシウム:二水和物は健康な動物にも出るが一水和物の出現は異常所見
    尿酸アンモニア:ダルメシアンに見られる(代謝の違い)
    ビリルビン結晶:健康なイヌにはみられる(ネコでの出現は異常)

・細菌:感染あるいは混入により出現
注意点:ウェットな尿沈渣標本では、ブラウン運動をする円形小粒子を細菌と勘違いしやすい

・真菌:感染あるいは混入により出現

・脂肪滴:特にネコの尿には正常でも多く出現

まとめ

尿沈渣検査は、全身の状態を見るスクリーニング検査としても行いますが、膀胱炎や尿路結石など、病気の治療経過の評価としてもよく用いられます。特に病気の経過を見る場合には、検査を行う人による検査のばらつきが評価を変えてしまい、治療に影響してしまうこともあるのです。

尿沈渣検査における正常像やアーティファクトをしっかり理解し、一定の手技で尿検査を行えるよう、今回の記事を参考にしてみてください。

獣医師O

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