イヌ・ネコの正しい採尿方法と注意点

尿検査を行うためには、検査の材料となる尿を採取しなければなりません。院内で血管に針を刺して血液を取るしかない血液検査とは違い、尿検査のための採尿法には様々な種類があります。

しかし、間違った採尿法や尿の保管方法では、正しい尿検査はできません。尿検査を診察にうまく組み込むためにも、適切な採尿方法を指導・採用できるようにしておきましょう。

尿検査に必要な尿の条件とは

尿検査を正確に行うためには、尿検査に適切な尿が必要になります。特に、飼い主さまに尿を採ってきていただくときには、どのような尿が必要なのかをしっかり伝えなくてはなりません。

まず、絶対に必要なのが「尿の量」であり、試験紙と沈査の両方の検査を行うためには、1mL以上あることが望ましいです。特に、尿沈渣検査で血球や細胞、結晶などの数や増減をチェックする場合、遠心する尿の量が毎回違っていては正しい評価ができません。
また、UP/C(尿蛋白/クレアチニン比)やコルチゾールなどを外注検査で調べるためには、多めの量の尿が必要になりますので、事前に確認して飼い主さまに伝えるようにしましょう。

また、十分な尿があっても、尿の性状が変性してしまっていれば、尿検査によって
体の変化を正確に把握することはできません。
特に以下のような理由により、尿検査が正確に行えないことが多いのです。

  • 尿成分以外の混入:ゴミ・ネコ砂や、尿の容器についていた細菌や液体成分などの混入
  • 時間による変性:長時間放置することで尿中の細菌が増えることによる、尿のpHや沈査成分などの変性

尿検査のための尿は、新品あるいはきれいに洗った容器に入れて、できるだけ早く検査をすることが大切です。採取して検査までに数時間以上かかる場合には、必ず冷蔵保存していただきましょう。冷蔵保存の時間は検査の目的にもよりますが、正確な検査結果を得るためには数時間から半日以内に検査が必要だと言われています。

イヌ・ネコの採尿方法

採尿方法はいくつかありますが、イヌとネコで簡単にできる採尿方法は異なります。
家で採尿していただく際には、以下のように指導してみましょう。

イヌの場合

イヌの場合には、散歩で尿をする子が多いので、その時に採尿するのが最も簡単です。
散歩中に使えるグッズとしては、浅めの紙皿、ペットシーツ、採尿スポンジなどがあります。

浅めの紙皿や採尿スポンジを使う場合には、イヌが排尿姿勢を取った時に身体の下にそれらを差し込むことで簡単に採尿できることが多いです。
しかし、気づくとやめてしまう子もいますので、タイミングを見計らってできるだけ気付かれないような位置から差し込むように指導しましょう。

お家の中でも散歩でも、ペットシーツで尿をする子であれば、ペットシーツを裏側にしておくことでビニールの上に溜まった尿を採ることができます。採尿用に使用済みの2.5~5mLのシリンジを洗って渡しておくといいでしょう。

ネコの場合

ネコの場合には、尿をしているときに何かしようとするとすぐに逃げてしまうので、トイレ自体を工夫しておく必要があります。

ペットシーツの上に尿をする癖がついている場合には、ペットシーツを裏返しにしておき、その上に溜まった尿を採取することが可能なことが多いです。

ネコ砂でトイレをするネコの場合には、採尿が難しくなりますが、細胞や血球だけを見たいのであれば、砂の上にティッシュなどを置いておいて、そこにしみこんだ尿を絞って持ってきていただくことで検査も可能です。

ネコの場合には、正確な検査をするためにも院内で採尿する必要があることも多いです。

家で採尿が困難な場合

お家での採尿が難しい場合や、無菌的な採尿が必要な場合には、院内で採尿します。
院内での採尿方法は主に3つですが、それぞれの方法には以下のようなメリット・デメリットがあります。

●圧迫排尿
メリット 器具が必要なく、時間もかからない。
デメリット 尿の貯留が少ない動物やイヌでは難しいことが多い。膀胱を損傷させるリスクがある。
●尿道カテーテル
メリット 尿が少量しか溜まっていない場合でも検査が可能。
デメリット 雌や暴れる動物では困難な場合がある。
●膀胱穿刺
メリット もっとも無菌的な採尿が可能。
デメリット 医原性の潜血混入や膀胱損傷の恐れがある。

図1.各採尿方法のメリット・デメリット

動物の性格や検査の目的に合った方法を採用するようにしましょう。

採尿の際の注意点

飼い主さまへ採尿方法をお伝えする際には、以下の点に注意するよう伝えましょう。

  • 無理に追いかけまわさない

無理に追いかけまわすと尿を我慢してしまったり、ストレスになったります。ストレスは、糖尿病や膀胱炎など、尿に異常が出る病気を悪化させてしまうことがありますので、追いかけまわすのはやめてもらいましょう。

  • 極力混入を避ける

正確な検査結果を得るために、他の混入が少ない方法で、きれいな容器で保存するように指導しておきましょう。

  • できるだけ早く検査をする

採尿から時間が経てば経つほど尿の変性を起こしてしまい、検査結果が不安定になります。
動物を連れてくることが難しい場合には、尿だけでも持ってきていただくなど、できるだけ新鮮な尿で検査できる方法を工夫してみましょう。

まとめ

尿検査を正確に行うには採尿が必要です。
また、尿が採れても採尿方法や保存方法を間違っていては、正しい検査ができません。

家で採ってきていただくことの多い尿検査では、採尿方法を確認することが難しく、検査の意味がなくなってしまう可能性もあります。正確な尿検査を行えるよう、スタッフ全員が正しい採尿法の知識を付け、飼い主さまに指導できるようにしておきましょう。

獣医師A

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