ネコの糖尿病では慢性膵炎を見逃さないように

ネコの糖尿病の背景には慢性膵炎が潜んでいることがよくあります。じわじわと慢性膵炎が進行し、膵島が破壊されて糖尿病を発症することもあります。また、糖尿病で具合が悪いのかと思っていたら、実は膵炎の症状だったというケースもあります。今回は、慢性膵炎と糖尿病を併発した症例を紹介します。

ネコの糖尿病

ネコの糖尿病のほとんどは、ヒトの2型糖尿病に似たタイプのもの、医原性糖尿病、そして慢性膵炎によるものだと考えられています。その中でも、慢性膵炎によるものが圧倒的に多いとされています。ヒトの2型糖尿病に似たタイプでは肥満が危険因子になります。そしてインスリン抵抗性によって血糖値の異常が生じますが、その原因の多くは薬物や併発疾患によるものであり、特発性のインスリン抵抗性は少ないようです。ネコの場合でも膵島へのアミロイド沈着は高い確率で認められ、最終的にはインスリン分泌が障害されるようになるため治療にはインスリン注射が必要になります。

慢性膵炎

慢性膵炎になるとしだいに膵島が破壊されるため、インスリンが不足して糖尿病を発症する危険が高まります。また、近年ではエコーの性能が向上してきたことや、膵特異的リパーゼの検査が普及してきたことで慢性膵炎の検出率が高くなってきました。その結果、糖尿病のネコの実に50%以上が慢性膵炎に罹患していて、慢性膵炎が糖尿病の原因もしくは増悪因子になっているということがわかってきました。

急性膵炎では激しい嘔吐や腹痛などはっきりした症状が認められることが多いのに対し、慢性膵炎では激しい症状が出ないことも少なくありません。元気消失や食欲不振が波のように出たり出なかったりといった非特異的な症状が特徴というくらいです。しかしながら膵臓ではじわじわと異常が進行している恐ろしい病気なのです。

症例紹介

12歳の雌ネコが多飲多尿と食欲不振を主訴に来院されました。もともと細めの体型でしたが、血液検査と尿検査を行い、糖尿病と診断しました。腹部超音波検査で膵臓を確認しましたが、明らかな膵炎所見を見つけることはできませんでした。念のため膵特異的リパーゼも測定したところ、膵炎も併発していることがわかったため、インスリン治療と同時に膵炎治療も行いました。

状態が安定してからはインスリン治療のみで自宅管理していますが、たまに食欲不振となります。血糖値が安定している場合はその都度膵特異的リパーゼを測定していますが、多くの場合膵炎による食欲不振であることが多いです。

まとめ

このように、特にネコの糖尿病治療では常に慢性膵炎の存在を意識しながら治療にあたっています。実感としては、肥満ではない糖尿病のネコに慢性膵炎が見つかることがよくあるという印象です。

獣医医師U

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