糖尿病になるとさまざまな併発症があります。ヒトでは糖尿病性網膜症は一般的な目の合併症です。イヌの場合は糖尿病性白内障が最も一般的ですが、ここではイヌの糖尿病性網膜症について紹介していきます。
糖尿病性網膜症とは?
糖尿病性網膜症とは、糖尿病が原因で網膜が障害を受け視力が低下する疾患であり、病気とともに進行し失明する恐れがあります。ヒトの方では糖尿病性網膜症は糖尿病腎症、糖尿病神経症と並ぶ、糖尿病の三大合併症といわれており、約3人に1人が併発すると言われています。現在のところイヌでは報告は少なく、糖尿病に併発する眼科疾患は白内障が一般的です。
糖尿病性網膜症の発生機序
ヒトの場合、高血糖の状態が続くと細胞が血中の糖分を吸収しきれずに血管に障害を与えます。網膜症にはさまざまな種類がありますが、その中でも増殖網膜症は血管新生を特徴とします。目の網膜にある血管は細く障害を受けやすいため、血管のつまりや出血、さらに元の血管が機能しなくなることで血管新生がおこります。
しかし、新しい血管は脆いため出血を繰り返し視力に支障をきたします。また、網膜症の症状が進むと、網膜剥離や緑内障などを併発し、失明に至ることもあります。イヌの場合は、糖尿病関連の血管病変の原因は未だ解明されていませんが、多因子性と考えられています。ヒトのような新生血管形成を特徴とする増殖網膜症はイヌでは確認されていません。また、糖尿病と診断を受けてから発症するまでに数年かかると報告されています。
糖尿病性網膜症における注意点
ヒトの場合では糖尿病のコントロールの改善で軽快することもありますが、イヌでは現在のところ難しいようです。糖尿病が正しく診断されて治療がうまくいっている場合でも糖尿病性網膜症が発生することがあるので、糖尿病発症後に経過が良かったとしても発症およびうまくコントロールができない可能性があります。糖尿病診断後も定期的に目に異常が無いかを確認し、網膜症の合併症が起きないように注意する必要があります。
まとめ
ヒトの糖尿病では有名な糖尿病性網膜症ですが、イヌでは稀とはいえ発症するケースがあります。糖尿病と診断してから数年後に発症するのが一般的なため、糖尿病診断後も目に関しては白内障だけでなく網膜症に関しても意識しなければなりません。また、網膜症では将来失明につながるような網膜剥離や緑内障の発症につながることがあるので、目に異常が出た場合に飼い主さまにきちんとインフォームするために、糖尿病性網膜症に関して知っておく必要があります。
獣医師S
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