【日本獣医生命科学大学】糖尿病ネコ ステロイド投与によるインスリン抵抗性について

今回は糖尿ネコにおいてステロイド治療(プレドニゾロンの投与)が必要になった場合のインスリン抵抗性の変化についてのお話です。

実際の臨床現場では、糖尿病ネコがリンパ腫や自己免疫疾患(腸炎や免疫介在性溶結性貧血)に罹患し、糖尿病で禁忌とされているステロイド剤の投与をすることがあります。

しかしながら、実際に糖尿病ネコにステロイド剤を投与した後、インスリン抵抗性や皮下からのインスリンの投与量がどのように変化するかはあまり知られていません。今回のブログでは実際に糖尿病ネコにステロイド剤を投与し、その後の血糖コントロールを評価した症例を紹介します。

初期症状と治療内容

血糖コントロールが安定しないということで9歳の去勢雄のネコが本学に来院しました。

症状は食欲廃絶、黄疸、重度の脱水、嘔吐、および衰弱が認められました。
初診時の血液検査の結果を表1に示します。

表1.初診時の血液検査結果

さらに尿検査で尿ケトンの強陽性が認められたため、血糖コントロール不良による糖尿病性ケトアシドーシスと、肝リピドーシスと診断し、入院治療しました。

入院中は点滴治療・静脈からのインスリン投与・制吐剤および強制給餌により治療したところ、症状の改善が認められました。

入院時の経過

入院から8日目に食欲も改善、血糖コントロールも安定したため、退院のための血液検査をしたところ、表2のような結果となりました。

表2.入院8日目の血液検査結果

 

生化学検査の項目はすべて良化傾向にあったものの、CBC検査において重度の貧血が認められました。さらに血液塗抹検査の評価より免疫介在性溶血性貧血と仮診断し、プレドニゾロン2mg/kg/一日一回の投与を開始しました。さらに9日目には輸血も行いました。

13日目には表3のような血液検査を示し、一般状態および食欲が改善し、血糖コントロールも安定化したので退院となりました。

表3.入院13日目の血液検査結果

 

入院中の血糖変動

入院7日目から退院日の13日目までの
本院での血糖値の日内変動を図1に示しました。

図1.血糖値の日内変動

7日目はステロイド投与前日であり、市販のドライフードを30g(102kcal)与えた(以後の食事はすべて朝晩同じ給与量)のちに、レベミル4単位を皮下投与しました。日中血糖値の低下が認められたので、夜はレベミル3単位に減量しました。8日目はステロイド投与を開始した日です。

レベミル単独の投与では朝の食前に高血糖を示したため、レベミル2.5単位、トレシーバ1.5単位の皮下投与を行い、さらにR(速効型インスリン)1.0単位の静脈投与も行いました。

トレシーバはレベミルよりもインスリンの作用持続時間が長いので、食前の高血糖の是正を狙いました。しかしながら、食前の高血糖は是正されませんでした。

9日目は輸血を行い、インスリンはレベミル2.0単位、トレシーバ2.0単位を皮下投与しました。
徐々に食前の高血糖が抑えられるようになり、その後も徐々にトレシーバの投与量を上昇させました。
13日目(ステロイド投与後6日目)に、インスリンはレベミル2.0単位、トレシーバ4.0単位を皮下投与し、良好な血糖コントロールを推移していたため退院となりました。

まとめ

  1. 糖尿病動物においてもステロイド投与が必要となる併発疾患は起こりうる。
  2. ステロイド投与によるインスリン抵抗性は1週間ほどかけて上昇する。
    必要インスリン投与量は個体差があるが、長期・高用量のステロイド投与では最終的にインスリンの必要量が1.5から2倍以上になることも珍しくない。

 

日本獣医生命科学大学 森昭博、左向敏紀

 

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