イヌの場合は糖尿病を罹患後にインスリンから離脱できる例はあまり認められません。一方で糖尿病のネコの場合、インスリンから離脱できるケースがあります。ここでは糖尿病の治療を行ってから10ヵ月ほどでインスリンが必要なくなった症例について報告します。
症例のヒストリー
症例は13歳の去勢雄で、最近飲水量が多いとのことで来院しました。体重減少や食欲低下などはこの時点では認められずネコ自身はいたって元気とのことでした。
血液検査を行ったところ、異常値としてGlu 524mg/dL、 Tcho 268 mg/dL、 TG 195 mg/dL、 ALP 437U/L、およびフルクトサミン379μmol/lが認められました。膵炎マーカー(Spec fPL)に関してはオーナーの金銭的問題で行えませんでしたが、これらの結果から糖尿病と診断し治療を開始しました。
糖尿病の治療
治療としては、猫用インスリン(プロジンク)を1.5U/headで開始し血糖値曲線を作成しました。また、フードはロイヤルカナンの糖コントロールを使用しました。入院中では血糖値の最下点が256mg/dLでしたが、その後通院での測定および自宅でのインスリン治療により2週間後に測定したこところ最下点が337 mg/dLと高く、2U/headに変更し3週間後には最下点が167mg/dLまで下がりました。
定期的に血糖値曲線を作成し、順調に経過観察していました。第0病日から9ヵ月後には最下点が60mg/dLと著しい低下を示したため、1.5U/headに変更しました。それから1ヵ月後には最下点が40mg/dLと、また著しく低下が認められたため、オーナーの希望もあり一度インスリンを中止することになりました。また、初期の血液検査で認められた異常値はすべて正常でした。
さらに、1ヵ月後、インスリンを打たない状態で、血糖値は最下点が84mg/dL、最高点が129mg/dLととても落ち着いた状態です。
現在の状態
現在では1ヵ月に1回血液検査を実施していますが、血糖値は常に正常範囲内に収まっており、糖尿病のフードのみ継続し経過をみています。また、尿素窒素やクレアチニンの軽度上昇が認められたため、尿検査・血圧検査を行いセミントラおよび吸着剤を使用しています。
まとめ
今回は膵炎などの検査ができなかったため予後判定が難しい症例でしたが、結果的にはインスリンを使用することで低血糖になるほど数値の減少を示し、投与を中断しても全く問題ない状態になりました。定期的に病院でお預かりして、血糖値曲線を作ることでインスリン投与を中止することができたと言えます。糖尿病の管理は血糖値曲線を作るのが基本ですが、中にはピンポイントのみの血糖値で判断してしまう獣医師もいるので注意が必要です。
獣医師K
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