2024年9月、ネコの新しい糖尿病薬としてSGLT2阻害剤ベラグリフロジン(商品名:センベルゴ)が発売されました。1日1回の経口投与薬で使いやすく、低血糖のリスクも低いため、使用を検討している先生も多いのではないでしょうか。そこで今回は、この糖尿病薬について知っておくべきポイントなどを解説します。
SGLT2阻害剤とは
腎臓の近位尿細管にSGLT2という、尿中に排泄されたブドウ糖を再吸収する輸送体があります。SGLT2阻害剤はその輸送体に作用し、ブドウ糖の再吸収を阻害します。これによりブドウ糖は、尿として排泄されるため血糖値が低下します。結果、糖毒性が改善され、膵臓のβ細胞が内因性のインスリン分泌を回復する可能性があります。
ブドウ糖の再吸収は、約90%がSGLT2から行われ、約10%がSGLT1から行われます。SGLT2阻害剤は、SGLT2のみ選択的に阻害するため、SGLT1の再吸収は続き、低血糖に陥る危険性も低くなっています。
インスリン製剤とセンベルゴとの比較
これまで糖尿病治療薬として一般的に使用されてきたインスリン製剤の注射と、経口SGLT2阻害剤ベラグリフロジン(センベルゴ)を比較した論文では、効果としては同等という評価が得られています。また、インスリン製剤にくらべ、臨床的な低血糖が発生しなかったと報告されています。
センベルゴ使用のポイント
メリットは、センベルゴ単独でも糖尿病治療ができる点です。また、インスリン製剤にくらべ低血糖発作が起こりにくいという安心感があります。インスリン製剤での治療時の血糖値曲線を作る作業が必須ではなくなり、注射を打つことが苦手であったり、ネコの性格的に対応が難しいなどの悩みを抱えている飼い主さまにとっては、1日1回の経口投与で負担も少なくなるでしょう。
副作用などのデメリットは、下痢・軟便が約50%のネコに見られる点です。これは、センベルゴが消化管のSGLT1受容体に、部分的に交差反応することによって起こると考えられていますが、ほとんどが一時的なものです。
また、尿中にブドウ糖が排泄されるため、尿路感染症にかかるリスクが上がります。
注意すべき点は、作用機序から糖尿病性ケトアシドーシス(以下DKA)に気をつける必要があります。血糖値が正常でもDKAになる可能性があるので、尿中ケトン体のモニタリングが欠かせません。
インスリン未使用のネコより、インスリン使用歴のあるネコのほうがDKAの発症率が高いため一層の警戒が必要です。DKAの多くは治療開始から14日以内に発症するため、特に治療開始早期には尿中ケトン体でのモニタリング、症例によっては血中ケトン体の測定も必要です。
まとめ
1日2回の注射が必要なインスリン製剤と、1日1回の経口投与で済むセンベルゴはまったく違ったタイプの薬です。注射が難しい飼い主さまや、低血糖発作を恐れている飼い主さまからは使ってみたいという要望が出てくることが予想されます。食欲があり、脱水もなく、ケトン体(-)、インスリン非依存性で、治療を開始する糖尿病のネコにとっては有効な選択肢になるでしょう。
一方、インスリン分泌能力が残っていないネコや、状態が安定しない糖尿病のネコには使用できません。また、インスリン使用歴のあるネコはDKAの発症率が高いため、モニタリングをしっかりするなど、慎重に導入を進めていきましょう。
獣医師B
【参考文献】
J Vet Intern Med. 2024 Jun 17;38(4):2099–2119. doi: 10.1111/jvim.17124 Efficacy and safety of once daily oral administration of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitor velagliflozin compared with twice daily insulin injection in diabetic cats
JAVMA | OCTOBER 2024 | VOL 262 | NO. 10 Velagliflozin, a once-daily, liquid, oral SGLT2 inhibitor, is effective as a stand-alone therapy for feline diabetes mellitus: the SENSATION study
ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン(株)HP
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