ネコの甲状腺機能亢進症の治療例

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甲状腺機能亢進症は、中高齢のネコを診察する際には必ず鑑別診断の上位にあがる疾患です。診断自体は血清総サイロキシン(T4)が高値であれば確定できるため比較的簡単ですが、症状に個体差があるため、意識していないと見落とすこともあるかもしれません。実際に、他院からの転院症例でこの病気が見つかることがたまにあります。今回は甲状腺機能亢進症のネコの初診時での診察所見と、診断から現在の治療経過までの一例を紹介します。

甲状腺機能亢進症のおさらい

高齢のネコで多く認められる内分泌疾患で、甲状腺癌や腺腫、過形成が原因でサイロキシンの分泌が過剰になり、様々な臨床症状が認められます。症状は非特異的で「活発で多食なのに体重が減少する」というのがよく知られていますが、実際には食欲不振になる症例も数多くいます。他には脱毛、多飲多尿、下痢、嘔吐、元気消失などがあります。

症例

12歳の雑種ネコが元気消失、食欲不振、体重減少を主訴に来院されました。もともと4キロ近くあった体重が、来院時は3.5キロまで減少。年齢や症状から甲状腺機能亢進症は鑑別診断リストの上位にあげていましたが、身体検査では頸部の触診で異常は見つけられませんでした。血液検査を実施したところ、ALPのみが上昇しており他の項目は基準値内にありました。

次に血清総サイロキシン(T4)濃度を外部検査センターに依頼したところ、5.1μg/dLと高値だったため、甲状腺機能亢進症と診断しました。

飼い主さまには、まず内服薬(チアマゾール)で甲状腺機能を正常にすること、外科手術によって根治が期待できること、治療の過程で腎不全が見つかることがあることなどを説明しました。そして内科治療の効果が出てきた場合に、手術をするかどうかを考えてもらうよう伝えました。

チアマゾールの内服を始めて1週間程で元気や食欲が回復し、体重の増加も認められました。そのまま1ヵ月間内服を継続してもらい、再度血液検査を実施したところ、前回は認められなかった腎パネルの悪化を確認。

これが甲状腺機能亢進症の治療時に必ず確認すべき点です。甲状腺機能亢進症では、腎血流量が増加しているせいで腎不全が隠れてしまうことがあります。この「隠れ腎不全」について事前に説明しておかないと、治療をしたせいで病気になったと感じてしまう飼い主さまもいます。今回は事前に説明していたため、その時点で慢性腎不全の管理も始めてもらうことに同意が得られました。

まとめ

今回の症例では、腎不全の管理が必要になったことと全身麻酔のリスクの点から、飼い主さまは外科手術を実施せずに内科治療を継続することを選択されましたが、治療開始して1年経過しても臨床症状が出ることなく安定して経過しています。

ネコの甲状腺機能亢進症の治療例をご紹介しました。症状には個体差があるため、慎重な対応が必要です。

獣医師E

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