イヌの腎臓病の際に使用する薬剤について

ネコには認可された腎臓病薬があります。ベラプロストナトリウム(ラプロス)やテルミサルタン(セミントラ)ベナゼプリル(フォルテコール)などです。一方でイヌにはネコのように認可された腎臓病薬がないのが現状です。ここでは、イヌが腎臓病になった時どのような薬剤を用いるか考えていきます。

イヌの腎臓病で薬が必要な時

たとえばネコにおけるラプロスではIRISステージ2~3で使用します。イヌではラプロスのように腎臓に特化した薬剤がないため、IRISステージ2だからこの薬を使用する、といった処方がありません。しかし、腎臓が悪くなると高血圧になりやすいため、血圧の管理がとても重要になってきます。高血圧の管理としては、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)を使用します。さらに重度の場合はカルシウム拮抗薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)なども使用します。

リンの制限

腎臓が悪くなるとリンの排泄が滞り、リンの血中濃度が上昇します。そのことでさらに腎臓に悪影響が起こるため、リンの濃度を上昇させないようにコントロールする必要があります。食事中のリンを制限することの他に、リンの吸着剤を使用します。水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸ランタンなど様々な種類があります。リンとカルシウムは均衡を保とうとするため、高カルシウム血症にならないように注意しましょう。

蛋白尿・その他の治療

蛋白尿の場合、腎生検も考慮しながら本当に腎臓病によるものかを検討します。その上で、腎臓病食やACEIによる治療を行います。ネコでの蛋白尿の場合、テルミサルタンが使用されることが多いですが、イヌの場合は認可が下りていないため、効能外使用となります。実際に使用した結果、蛋白尿が軽減した経験のある獣医師もいるようですが、上記の理由から飼い主とよく話し合った上で使用する必要があります。

また、腎臓病が進行していくと貧血になってきます。PCV20%を下回る場合は貧血に対する治療が必要で、持続型赤血球造血刺激因子製剤であるダルべポエチンなどを使用し、QOLの低下を防ぎます。

まとめ

ネコと異なり、イヌにおける腎臓に特化した薬がまだありません。しかし、イヌはネコに比べて腎臓病が進行するスピードが速いため、適切な治療をしなければ予後に大きく影響します。腎臓病と診断してからも血圧や蛋白尿、リン・カルシウムなどは定期的に測定しモニターする必要があります。

獣医師A

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