雌犬の黄体期糖尿病の診断と治療について

近年では、雌犬に対する避妊手術を推奨する獣医師の割合が約9割を超えています。それに対して、実際に愛犬への避妊手術が実施される割合は約5割という調査報告書も存在します。子宮蓄膿症や乳腺腫瘍、卵巣腫瘍は避妊手術をすることで予防できる病気として有名ですが、それ以外にも糖尿病での血糖値のコントロールを難しくする黄体期糖尿病も予防できる病気です。今回は、避妊手術を受けていない雌犬に見られる黄体期糖尿病の診断と治療についてお伝えしていきます。

黄体期糖尿病の診断

黄体期糖尿病での症状としては、一般的な糖尿病と同じく多飲多尿が見られます。高血糖値を示し、尿糖も陽性。時期的には発情出血が見られた後に起こり、エコー検査で発達した黄体が確認できる場合もあります。また、血液中のプロジェステロンの数値をみることで黄体期糖尿病と診断することが可能です。

黄体期糖尿病の治療

上記の主な症状に加え、検査結果から黄体期糖尿病と診断した場合、可能な限り卵巣摘出術による避妊手術を行います。黄体期に移行した場合、黄体から分泌されるプロジェステロンが強力なインスリン抵抗性を示すため、血糖値のコントロールは著しく困難です。この状態は黄体が消失するまでの約1ヶ月間継続してしまいます。何らかの理由で避妊手術が困難な場合は、通常の約2倍量のインスリンを使用することで血糖値をコントロールできる症例もありますが、それでも難しい場合も少なくありません。高血糖状態での手術は麻酔リスクが高くなることから、手術のタイミングを慎重に判断する必要があります。目標とする血糖値は100−200mg/dL。手術後も同様に100-300mg/dLを目標に血糖値を維持し、高血糖による術創の易感染性の予防には配慮が必要です。

まとめ

日々の診療の中で経験した症例から、多くの獣医師が避妊手術の必要性を訴える一方、飼い主さまサイドの理由もあってか避妊手術が実施されるのは全体の半数しかありません。獣医師としては、ほとんどの雌犬が避妊手術を受けている感覚になるかもしれませんが、飼い主さまと獣医師の認識のズレから黄体期糖尿病が鑑別診断から抜け落ちてしまうことも少なくないのではないでしょうか。治療法に関してはインスリンの投与による血糖値のコントロールに意識が行きがちですが、それ以上に避妊手術の有無の確認を忘れてはいけません。

獣医師F

参考資料:https://www.env.go.jp/council/14animal/y140-46/mat03.pdf

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【日本獣医生命科学大学】雌イヌの黄体期糖尿病における避妊の重要性