高齢ネコにみられる慢性腎臓病の治療法と生活の管理

近年の獣医療の発展やフードの改善に伴い、飼いネコの平均寿命は約15歳にまで延びてきました1)。それに伴って、死因の上位を占める疾患は、人間と同じような傾向を示すようになっています。その中でも死因のトップ3に入っている病気のひとつである慢性腎臓病に関して、その治療法と予後に関係する生活の注意点、食事管理についてお伝えしていきます。

慢性腎臓病の治療

慢性腎臓病は治る病気ではありません。したがって、進行を抑制し、残された腎臓の機能をなるべく長期間温存することが治療の目的です。慢性腎臓病の治療は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が定めるステージⅠ-Ⅳに応じて実施2)します。各ステージで推奨される治療内容に加えて、慢性腎臓病でみられる合併症が併発する場合はそれに対する治療が必要です。一般的に遭遇する機会の多い合併症としては、脱水、高血圧、Ca・P代謝異常、尿毒症、及び貧血が挙げられます。

慢性腎臓病の生活の注意点と食餌管理

慢性腎臓病は早期に発見し、そのステージや併発疾患に伴う適切な治療を施すことができれば長期的な予後が期待できます。そのために必要なのがこまめな定期検診です。

安定した慢性腎臓病が急激に悪化する(急性腎不全が併発する)ことも多く、ステージや併発疾患によって、1~3ヶ月に1回の血液検査や身体検査及び尿検査などを実施し、過不足のない治療を施す必要があります。また、多尿により脱水に陥ってしまうことも多く、新鮮な水を常に飲めるようにすることも推奨されます。器や場所にこだわりを持つネコも多く、陶器製に変更したり、蛇口からの新鮮な水を複数箇所に設置したりするなどの工夫も有効です。

食餌管理に関して、ステージⅡ以上では、基本的に腎臓病用の療法食を使用します。ここでも水分摂取量を増やす目的で、食べてくれるのであればウェットフードが推奨されます。腎臓病療法食では蛋白とナトリウム及びリンの制限がされており、通常食での生存期間中央値は210~264日に対し、リン制限食では480~633日とその有効性が示されています3)。しかしながら、通常食と比較すると腎臓病療法食の嗜好性は劣り食べてくれない場合もあります。

慢性腎臓病における体重減少は生存期間の短縮につながることが報告されており、悪液質にならないように食べてくれるような工夫と栄養管理が非常に重要です4

まとめ

2014年の論文では15歳以上のネコの81%が慢性腎臓病と報告されています5。ネコの高齢化に伴い遭遇する機会の多い疾患ではありますが、その合併症によって病態は複雑化することもあるのです。それに加えて、年齢的に甲状腺機能亢進症や心筋症などの併発疾患が発覚することもあります。異常を早期に発見し適切な治療をするためには、些細は変化でも可能な限り受診してくれるような指導に加え、気軽に来院していただけるような信頼関係を築いていくことも忘れてはいけません。

獣医師E

【参考文献】

  1. 一般社団法人 ペットフード協会 令和2年度 全国犬猫飼育実態調査
  2. http://iris-kidney.com/
  3. Vet Rec.2005 Aug 13;157(7):185-7.Retrospective study of the survival of cats with acquired chronic renal insufficiency offered different commercial dietsE A Plantinga 1,
  4. J Vet Intern Med. 2016 Sep;30(5)Evaluation of Weight Loss Over Time in Cats with Chronic Kidney Disease L M Freeman
  5. Marino CL. J Feline Med Surg. 2014
thinka Journal vol.2では、尿検査について詳細に解説いただいています。

【日本獣医生命科学大学 宮川先生】腎臓病に関する話題~連載1回目:慢性腎臓病とは?~

【岩手大学 佐藤先生】尿検査の意義~尿蛋白の解釈について