この記事では、「トセラニブ-メロキシカム併用療法のみで口咽頭扁平上皮癌が寛解した猫の1例」という論文の内容を、獣医師である筆者が要約としてまとめました。診療の一助になれば幸いです。
現状
ネコは、イヌと比較して口咽頭腫瘍の発生は非常に稀です。発生した場合、扁平上皮癌(SCC)が最も多いと言われています。一般に腫瘍の治療では組織生検や外科療法、放射線療法などが行われますが、咽頭腔内に腫瘍が発生した症例では、麻酔が困難となるケースが多いです。そのため治療の選択肢が狭くなるという問題があります。 さらに、ネコの扁平上皮癌では化学療法による生存期間中央値(MST)が30~59日と短く、効果的とは言えない現状があります。
症例
今回の論文の症例は、ドメスティック・ショートヘア、体重4.12kg、去勢雄、15歳齢です。症例は、完全室内飼育、FIVとFeLVは陰性ですが、腎臓病の持病があり、腎臓サポートを給餌しています。2ヵ月前からストライダー、いびき、嗄声、嚥下障害、体重減少などが認められ、他院にてドキシサイクリンを度々処方されていましたが改善が認められなかったため、執筆者の医院を受診しました。
経過
転院初診日(第1病日)、X線検査にて咽頭喉頭部内に26×13mmの腫瘍性病変が認められました。
また、転移を疑うX線所見や体表リンパ節の腫脹はありませんでした。これらの所見より、リンパ腫の可能性が考えられたため、試験的にステロイド投与を実施。しかし、腫瘍性病変に変化が認められなかったため、第6病日にプレドニゾロンの投薬を中止しました。
そして、第9病日に無麻酔造影CT検査を実施したところ、造影剤にて不均一に増強される軟口蓋尾側端に連続した約26×13×16 mmの腫瘍性病変と、右の内側咽頭後リンパ節の腫大が確認できました。そこで、第13病日に麻酔下にて腫瘍の確認を行いました。
しかし、外科的な切除や減容積は困難であると判断し、腫瘍深部よりFNAにて細胞を採取、病理検査にてSCCが第一に疑われるとの結果を得ました。そのため、第14病日からメロキシカム、トラセニブの投薬を開始しました。
第22病日にはストライダーや嗄声などの臨床症状が消失し、X線検査では腫瘍は確認することができないほど縮小していました。ただ、第38病日にクレアチニンが339 mg/dlLまで上昇していたため、ここでメロキシカムを休薬しました。
しかし、数日後にX線検査を再度実施したところ、腫瘍の再発が確認されたため、飼い主さまと相談した結果、腫瘍による咽頭閉塞の治療を優先することになりました。メロキシカムを再開し、飼い主さまの献身的な看護により第69病日現在まで生存しています。
まとめ
本症例のSCC発生部位は解剖学的に極めて予後が悪いことが予想されていましたが、トセラニブ・メロキシカム併用療法で一時的に完全または部分寛解するという結果になりました。トセラニブについては口腔内SCCのネコに有用性があるとの報告がいくつかありますが、SCCに対するメロキシカムの機序については不明です。
しかし、トセラニブ単独に切り替えたところ腫瘍が再増殖しました。このことから、メロキシカムが腫瘍の増殖抑制に何らかの影響を与えたと考えられました。
今回の結果により、ネコの口腔内SCCに対してトセラニブとメロキシカムの併用治療が有用である可能性が示唆されています。
獣医師B
【参考文献】
村田結皆、伊藤麗奈、間宮里佳、今林恵理、田頭偉子、阿部百合以、難波裕之、村田貴志, トセラニブ-メロキシカム併用療法のみで口咽頭扁平上皮癌が寛解した猫の1例, J Jpn Vet Cancer Soc, 2022, vol.11. 3. 27-32.