歯周病を呈した糖尿病のネコの1例

ネコの糖尿病ではさまざまな病気が併発するケースが多いですが、意外に盲点になるのが歯周病です。
中高齢以上のネコのほとんどが歯周病を呈していることが多く、歯周病がある場合、糖尿病のコントロールがうまくいかないことがあります。本症例は、糖尿病と診断され、インスリン治療を行っていましたがなかなか血糖値が調節できず、歯周病処置を行ったところ血糖曲線が安定したネコの1例を紹介します。

症例紹介

去勢雄6歳、体重7kg。最近、飲水量が多いとのことで来院し、血液検査・尿検査を行ったところ、糖尿病と診断されました。Spec fPLの結果は基準範囲内でありエコー検査でも特に異常が認められなかったため、膵炎の併発は否定的であり、プロジンクを用いた一般的なインスリン治療を行いました。

血糖曲線を作成したところ、インスリンの量を増やしても血糖値の下がり具合が悪かったため、再度併発疾患を検討したところ、歯周病が関連しているのではないかと考えられました。

歯周病と糖尿病の関係

歯周病は基本的には局所の炎症ですが、ヒトの方では炎症性メディエーターにより心血管疾患・腎疾患・肝疾患・糖尿病の増悪因子などリスクを高めることが明らかとなっています。ネコでも歯肉炎及び活動性歯周炎では菌血症が認められており、持続的な菌血症は遠隔器官にも影響することがわかっています。

さらに細菌そのものだけでなく細菌が生産する毒素・炎症性メディエーター・組織破壊による分解副産物が直接的に有害作用を及ぼしたり、免疫反応を引き起こしたりすることで、局所だけでなく遠隔器官に障害を引き起こすと考えられています。

具体的には歯周病の存在と、心臓や腎臓など各器官の病理組織学的変化には関連があると言う報告や、肝膿瘍、肝変性と歯周病との関連性を示唆する報告、糖尿病のコントロールが歯周病治療により可能になった報告などがあります。
こういったことから、歯周病は単に局所の感染の問題だけではないといえます。

インスリンの効きに変化が見られた

糖尿病に罹患している動物に麻酔をかけることはリスクがありますが、血糖値を管理しながら全身麻酔を用い、歯周病処置を行いました。具体的には歯科用レントゲンを用い、歯根部に問題があった歯は抜歯を行い、残存できる歯は歯石除去・ポリッシングを行い研磨、歯科用抗生剤の投与を行いました。

それから2週間後に歯の経過とともに血糖値を見ていくと、インスリンの効果が強くなったのか、血糖値が89mg/dlまで低下していました。そのため、インスリンの量を減らし、今では月に一度血糖曲線を調べるために来院していただいていますが、良好にコントロールできています。

まとめ

ネコの糖尿病を治療するにあたって、併発疾患があると血糖値のコントロールが不安定な場合があります。併発疾患といえば膵炎などがすぐに考えられますが、歯周病の存在を見落とすことがあります。日頃の診療でも歯周病治療を積極的に行うことで、将来糖尿病を罹患しても管理がしやすくなります。また、糖尿病を発症した場合にも全身状態を診ながらになりますが、歯周病処置をすることは有意義だと考えられます。

獣医師N

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