猫特発性膀胱炎は、猫下部尿路疾患の多くの割合を占めています。猫特発膀胱炎もその他の猫下部尿路疾患と同様に、頻尿・血尿・排尿痛などの症状を引き起こします。その原因はまだはっきりとはわかっていませんが、代謝異常・神経性の異常・ストレスなどが関与していると考えられています。多くの症例は無治療でも1週間程度で症状が改善しますが、何度も繰り返す症例や難治性の症例も珍しくありません。そのような場合は、薬物療法も検討されます。猫特発性膀胱炎に対する薬物療法については様々な検討が行われており、今回は、猫特発性膀胱炎に対するアミトリプチリン投与の有効性についてご紹介します。
猫特発性膀胱炎に対するアミトリプチリン投与に関する報告
ここでは、猫特発性膀胱炎に対してアミトリプチリンの投与を行った報告を3報ご紹介します。
- ●1998年の報告1)
治療に反応しなかった特発性膀胱炎のネコ15頭に対してアミトリプチリン10 mgをSIDで経口投与し、12ヶ月間もしくは症状が再燃するまで継続した。投与開始から6ヶ月後には15頭中11頭で症状が消失し、そのうちの9頭ではその後6ヶ月間再発が見られなかった。 - ●2003年の報告①2)
未治療の急性非閉塞性特発性下部尿路疾患のネコ31頭に対してアミトリプチリン5 mgもしくはプラセボをSIDで7日間投与した。アミトリプチリン投与群とプラセボ投与群で有意な差は見られなかった。 - ●2003年の報告②3)
特発性下部尿路疾患のネコ36頭に対してアミトリプチリン10 mgもしくはプラセボをSIDで7日間投与した。両群間で有意な差は認められなかった。
難治性猫特発性膀胱炎に対するアミトリプチリンの長期投与の有効性
上記で紹介した3報のうち、2報ではアミトリプチリン7日間投与群とプラセボ群で有意差は認められませんでした。しかし、残り1報では難治性症例に対してアミトリプチリンを12ヶ月間投与し、投与開始から6ヶ月の時点で15頭中11頭において症状の消失が認められています。そして、そのうち9頭ではその後6ヶ月間症状の再発が認められませんでした。
以上の報告から、猫特発性膀胱炎に対するアミトリプチリンの短期投与の有用性は低いものの、難治性症例に対する長期投与は有用である可能性が考えられます。
アミトリプチリンの猫特発性膀胱炎に対する有用性は関してはまだエビデンスが少ない状況ではありますが、難治性の症例に対してはアミトリプチリンの使用を検討してみてもいいかもしれません。
<参考>
1) Chew, D.J., Buffington, C.A., Kendall, M.S., Di Bartola, S.P., Woodworth, B.E. (1998): Amitriptyline treatment for severe recurrent idiopathic cystitis in cats. J. Am. Vet. Med. Assoc., 213, 1282-1286.
2) Kruger, J.M., Conway, T.S., Kaneene, J.B., Perry, R.L., Hagenlocker, E., Golombek, A., Stuhler, J. (2003): Randomized controlled trial of the efficacy of short- term amitriptyline administration for treatment of acute, nonobstructive, idiopathic lower urinary tract disease in cats. J. Am. Vet. Med. Assoc., 222, 749- 758.
3) Kraijer, M., Fink-Gremmels, J., Nickel, R.F. (2003): The short-term clinical efficacy of amitriptyline in the management of idiopathic feline lower urinary tract disease: a controlled clinical study. J Feline Med Surg., 5, 3, 191-196
獣医師Y