血液検査で分かるネコの遺伝性疾患「多発性嚢胞腎」

ネコの遺伝性疾患の中で比較的知られているものの一つに、「多発性嚢胞腎」があります。以前は健康診断などで偶発的に発見される、あるいは明確な症状が見られて初めてこの疾患を疑うケースが多かったのですが、現在では血液をサンプルとした遺伝子検査により、ある程度発症リスクをインフォームできる時代になりました。ただし、遺伝子検査で異常が見つかっても必ずしも発症するわけではないことに留意し、診断にはエコー検査などを用いた総合的な判断が必要です。今回は、ネコの多発性嚢胞腎に関して、その遺伝様式と治療法についてお伝えします。

多発性嚢胞腎と遺伝性について

多発性嚢胞腎については、ペルシャの約40%がこの疾患に罹患していると報告されています1)。常染色体優性遺伝で、PKD1遺伝子のエクソン29における単一ヌクレオチドの変異がその原因とされています2)。したがって、両親のどちらか一方がこの遺伝子を持っている場合、性別に関係なく、50%の確率で次世代へ伝達され、罹患ネコが生まれてしまう可能性があるのです。また、近年ではアメリカンショートヘア、スコティッシュフォールド、及びその類縁種でも遺伝性の多発性嚢胞腎が報告されています。

多発性嚢胞腎の治療法

非常に残念ながら、根本的な治療方法は確立されていません。徐々に嚢胞数が増加し、嚢胞自体の大きさが増大していくにつれて腎臓機能低下が起こり、やがては腎不全でみられるのと同じような症状が出てきます。それに伴い、慢性腎臓病の治療方針に準じて治療を進めていくのが通常です。慢性腎臓病の治療として輸液をする機会が多いですが、ヒトでは過剰な飲水はむしろ嚢胞の拡大を招くことが報告されていることから、過剰な輸液は避ける必要があります。また、バソプレシンが嚢胞拡大に関与していることが知られており、ヒトではバソプレシン受容体拮抗薬が治療薬として有望視されていますが、ネコでは報告がありません。

まとめ

多発性嚢胞腎は完治が期待できないだけではなく、進行を止めることもできず、他のネコより短命で亡くなってしまう病気です。根本的な治療法がないこのような遺伝性疾患においては、その動物を救うことは難しいのが現状です。しかし、これから生まれてくる動物が健やかに過ごすためにできることはあります。それは、少しでもこういった遺伝性疾患を持つ動物を減らすべく、ブリーダーへの呼びかけを通じて認知してもらうことではないでしょうか。臨床の現場でただ弱っていく動物を目の当たりにしている獣医師だからこそ、「伝えること」がこの病気を治すための一番有効な方法なのかもしれません。

獣医師H

1)Barrs VR, Gunew M, et.al.Prevalence of autosomal dominant polycystic kidney disease in Persian cats and related-breeds in Sydney and Brisbane.Aust Vet J.2001

2) Lyons LA,Biller DS, et al.Feline polycystic kidney disease mutation identified in PKD1.J Am Soc Nephrol.2004

ネコの多発性嚢胞腎