イヌの糖尿病の併発疾患にはどのようなものがある?併発疾患を考慮した糖尿病の治療法について

イヌの糖尿病は7-9歳をピークに4歳ぐらいの若齢から高齢まで比較的幅広く発生が見られます。また、ネコの糖尿病のように寛解する可能性はなく、生涯にわたってインスリン治療が必要です。このように長期にわたって付き合っていく必要性のある疾患は、最期の時を迎えるまで終始順風満帆にいくことは少なく、その途中で何らかの併発疾患も一緒に相手にしなければならない状況に陥った経験をされた先生方も多いのではないでしょうか。今回は、比較的遭遇する機会の多いイヌの糖尿病の併発疾患について、また、その併発疾患を考慮した糖尿病の治療法についてお伝えします。

イヌの糖尿病の併発疾患

併発疾患として多いのは、細菌性膀胱炎、白内障、低血糖及び糖尿病性ケトアシドーシスです。糖尿病では免疫力低下から易感染性となってしまうこと、また、尿中に糖分が出てしまうことから細菌性膀胱炎を起こしやすくなります。次に、白内障は長時間の高血糖により糖化蛋白が多く生成され、それが水晶体に蓄積してしまうことから引き起こされてしまいます。低血糖は、血糖値のコントロール不良で起こり、虚脱や痙攣が見られます。発生頻度としては多く、注意が必要です。そして、糖尿病性ケトアシドーシスは主に糖尿病発症時起こりやすく、糖代謝に異常をきたし、ケトン体が著しく増加した状態で見られます。救急性が高く、状況把握に加え、適切な治療が求められる疾患です。

併発疾患を考慮した治療法

上記で挙げた併発疾患について、いずれも併発しないようにする共通の方法はお伝えする必要がないくらい当然の内容かもしれません。それは、適切な血糖値のコントロールができるかどうか、それに尽きるからです。

まずは、食餌の選択及び理想体重の推定からのカロリー計算を行い、次に適切なインスリン製剤の選択を行い、血糖値の変動を確認します。血糖値のコントロールが安定してきたら、1~2ヶ月に1回の長期血糖コントロールマーカーの測定や尿糖の確認を実施します。時には細かな指導を行い、適切な血糖値を維持できるよう飼い主さまと協力して管理していきましょう。

まとめ

あらかじめ併発疾患を知っておくことは、飼い主さまへのインフォームドコンセントはもとより、実際に対応を迫られた時の獣医師側の心の準備としても非常に重要です。起こりうるリスクとして双方が理解し、その対処法を明確化することは、安心を生み、獣医師への信頼を深めていくことにつながるでしょう。

臨床の現場では、教科書に書いてあるような型通りの経過を辿ることはほぼなく、気をつけていても起こりうる併発疾患は私たちが提供できる獣医療の限界かもしれません。それでも、できる限りのベストを尽くすことが、ひいてはその限界を越える可能性を生むのではないでしょうか。

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