【日本獣医生命科学大学 左向教授】血糖コントロールがうまくいかない場合の対処方法・原因の考え方(イヌ編)

イヌとネコとで状況が異なると思うので別々に考えてみましょう。
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イヌの糖尿病とは

イヌ糖尿病の場合、ほとんどがインスリン依存性状態(IDDM:インスリン治療が必要)の糖尿病であり、インスリンの選択が重要になる。IDDMの場合、食事からの血糖上昇をインスリンで抑える必要があり、食事回数とインスリン回数を同じにする、食事給与時にインスリン投与するのが原則である。

動物のサイズの問題

投与したインスリンの効果は、投与部位からの吸収に依存する。イヌの運動性および動物のサイズが大きく影響する。運動性の高いイヌ、小型犬ほどインスリン効果時間が短い。

5kg前後のイヌの場合

5kg前後となるとNPHインスリンは6時間ぐらいで効果が消失する。すなわち、NPHインスリンで維持するためには、1日3回の投与、3回の食事が必要になる。現実的にはオーナーの生活の質に問題を起こす可能性がある。この場合にNPHインスリン1日2回の投与とすると、食事給与・インスリン投与後6〜12時間に血糖上昇が起こる。このため、食前は高血糖を示す、尿糖陽性を示すのが当たり前となり、投与インスリンの増量をすべきかは判断できない。

この場合、インスリンの増量をしてもインスリン効果は切れており、食前血糖は低下しないか上昇する。食後2~4時間の低血糖、食前の血糖が上昇するいわゆるソモギー現象を起こす可能性があるので、食前だけでなく、食後2~4時間後の血糖を測定してみる必要がある。

対応方法としては、効果時間の少し長めのインスリンを使用する。ただし、イヌにおいて、小型犬でも、インスリングラルギン(ランタスⓇ)や、インスリンデグルデク(トレシーバは食後の血糖上昇を抑える事ができないので、使用は難しい。インスリンデテミル(レベミルⓇ)は、食後血糖を抑える事ができ1日全体としても良好なコントロールの達成が可能であるが、他のインスリンより3~4倍ほど単位あたりの効果が強いので、使用時には投与量の選択に十分注意する。プロジンクはNPHインスリンより効果時間がやや長めであり、小型犬、活動性の高いイヌには効果が期待できる。

10kg前後のイヌの場合

NPHインスリンでは10kg 前後のイヌでは12時間ほど効果が持続するというか、効果が消失する。このため、10kg前後の糖尿病犬に対して、1日2回の食事と1日2回のNPHインスリン投与は良好なコントロールを行える。

15~20kgのイヌの場合

15~20kgの中〜大型犬ではNPHインスリンの効果が長く、食後高血糖、12時間以上のインスリン効果、低血糖を示すことがある。一般にはNPHインスリンに速効型インスリンを30%混合された30Rインスリンなどを試してみる必要がある。

フードの選択

一般のドライフードを給与すると食後高血糖、食前低血糖が起こることがある。この場合は食事による血糖上昇とインスリン効果時間が合っておらず、インスリン効果時間のやや短いものに変更する必要がある。

もう一つの方法として、食事の変更により、血糖上昇時間を少しゆっくりにする方法がある。食物繊維の使用、ウェットフードの利用である。フードでの食後血糖上昇の時間移動はそれほど大きくは移動できない(最大2時間程度)。微妙なずれの調整が可能かも知れない。

フードの調整としては、低炭水化物(高タンパク質)食が用いられるが、このフードは食後血糖上昇を小さくするので、インスリン投与量を下げる必要がある。

併発症の存在

非避妊雌の場合

黄体ホルモンの上昇によりインスリンコントロールが困難となる。経験上、インスリン投与量は3倍必要であるが、飼い主の了承を得てできるだけ早く避妊手術を行う。非避妊雌の場合は、血中プロゲステロンを測定すると良いが、既に低下していても2~4週インスリン抵抗性が持続していることが多い。そういう場合も、飼い主の理解を得て避妊手術を行うことが良い。術後は、1〜7日ほどでインスリン抵抗性は改善する。

クッシング症候群による糖尿病、併発例

高齢発症の糖尿病の時は、クッシング症候群が併発していないか精査する。ACTH刺激試験の投与後の数値が、15μg/dL以上の場合のような軽度副腎皮質機能亢進症症候群、潜在性クッシング症候群の場合でも糖尿病の発症は起こるので、併発症例として対応するのが良い。

これらの場合は、

  1. インスリン投与量は、インスリン抵抗性のないものより多い。2倍程度。
  2. インスリン効果が切れぎみの時間から血糖値が上昇する。たとえばNPHインスリン、10kg前後でも、12時間後の食前では血糖値が上昇している。
    対策としては、効果時間が長く、インスリン作用が強いインスリンデテミル(レベミルⓇ)を使用する。

ステロイド剤の投与時

クッシング症候群と同様の対応をする。

日本獣医生命科学大学 左向敏紀

【日本獣医生命科学大学 左向教授】糖尿病とは??~イヌ編~