予防シーズン到来! 犬糸状虫症

犬糸状虫症は、かなり古くから存在しており、江戸時代の記述に犬糸状虫症と推定される事例が記載されているようです。
50年ほど前から予防が実施されるようになり、近年では獣医師の啓蒙活動が功を奏したこと、また、ペットの飼育環境の変化・家族化に伴い、犬糸状虫症の予防が浸透してきており、感染率は下がっています。しかし、一方で地域や環境、飼い主さまの考え方によっては未だに犬糸状虫症予防の重要性が理解されず、感染してしまっているケースが見受けられます。
犬糸状虫症は未解明の部分も多くあり、感染してしまうと非常にリスクの高い疾患です。
フィラリアに感染し、慢性犬糸状虫症を発症すると多くの場合、乾性発咳(フィラリア咳)が認められます。アレルギー反応が関係しているのではないかと考えられています。

犬糸状虫症の発生

犬糸状虫症は蚊の媒介によって、ミクロフィラリアがイヌの体内に入り、フィラリアの成虫が肺動脈や心臓に寄生することで肺循環障害を呈します。
肺動脈に犬糸状虫が存在すること、虫体が死滅して塞栓病変をつくること、肺動脈の内皮が障害されることなどが問題となり、中でも死滅虫体の塞栓病変によって高血圧を招き、右室が拡張し三尖弁に影響を及ぼします。

犬糸状虫症の診断

症状としては主に乾性発咳(いわゆるフィラリア咳)が認められることが多いようです。
犬糸状虫症の診断では、まずは飼い主さまに、ペットに対するフィラリア予防が行われていたかどうかを問診します。
投与期間や状況によっては完全に予防できていない可能性があるので稟告は重要です。基本的には血液検査、画像検査などによって診断します。
犬糸状虫の抗原キットによる診断が簡便で正確性が高いため広く選択されていますが、雄のみの少数寄生や、雌の1隻のみの寄生、未成熟虫のみが寄生している場合だと陰性になる可能性があるので注意が必要です。
その他、腹囲の膨満や心雑音がないかどうか、画像検査で肺動脈の拡大や腹水貯留の有無、塞栓病変の程度などを総合的に確認します。

犬糸状虫症の治療

一つは内科療法です。駆虫薬としてヒ素が用いられます。
また、フィラリア症予防薬として用いられているイベルメクチンは長期間にわたって投与することで犬糸状虫の駆除ができます。
しかし、どちらも肺動脈の塞栓病変の形成を回避することはできず、リスクがあります。
もう一つの方法は外科療法です。肺動脈に寄生している犬糸状虫を吊り出し法により摘出する方法です。完全に摘出できなかったとしても、虫体の数を減らすことができるので、内科療法を併用した時の合併症のリスクが減少します。
最近では犬糸状虫症予防が昔よりも行われているため、外科手術を行う機会が減り、手術に必要な器材が用意できない、また、未経験の獣医師が多く外科療法に踏み切れないケースもあります。

まとめ

犬糸状虫症の予防は浸透してきたものの、地域によってイヌの飼い方やフィラリアに対する認識不足から犬糸状虫に感染しているイヌが未だに見受けられるのが現状です。
感染してしまうと内科療法、外科療法ともにリスクのある治療法を選択せざるを得ません。

基本的にフィラリア予防薬で予防できる疾患のため、飼い主さまに犬糸状虫症について正しく認識してもらう必要があります。
今後の獣医療は、「病気を治す」だけでなく、いかに「予防」への意識を高めていけるかが重要になってくると思います。

獣医師A

冒頭の写真は院内用のフィラリア予防の啓発ポスターの一部です。
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