シュウ酸カルシウム尿石症における高ナトリウム食の有用性に関しては、賛否あるのが現状です。そこでこの記事では、シュウ酸カルシウム尿石症と、食餌中ナトリウムの関連性についてお伝えします。
ACVIMコンセンサスガイドラインによる明記
American College of Veterinary Internal Medicine(ACVIM)が発表している、尿石症の治療と予防に関するコンセンサスガイドラインでは、水分を多く含んでいるフードの代わりに高ナトリウム食 (100kcalあたり375mg以上ナトリウムを含むドライフード)を与えるべきではないと明記されています。
これは、ネコに低ナトリウム食を給与した場合のほうが、高ナトリウム食を給与されたネコにくらべ、尿中カルシウム排泄量が減少したという報告に基づくものです。
高ナトリウム食が、シュウ酸カルシウム結石のリスクを減少させるという報告も
一方で、高ナトリウム食は飲水量を増加させ、尿比重を低下させることにより、シュウ酸カルシウム結石の形成、ならびに再発を減少させるとの研究や見解もあります。しかし、これらは健康ネコを用いて行った研究であり、シュウ酸カルシウム尿石症の既往歴あるいは好発種での研究はありません。
また、比較的長期にわたって高ナトリウム食を給与された研究では、2年の試験期間のうち、尿比重の低下が認められたのは3カ月以内であり、それ以降はコントロールとの間に有意差は認められないと報告されています。
水分摂取量を増やせば尿比重が低下し、尿中のカルシウムならびにシュウ酸濃度を低下させ、シュウ酸カルシウム結石の形成を阻害するのは事実のようですが、水分摂取量を増やすために高ナトリウム食を長期間給与することに対しては、シュウ酸カルシウム尿石症の長期にわたる再発予防という観点からは疑問も残っています。
シュウ酸カルシウム結石に対する高ナトリウム食の有用性の有無
上記のように、健康なネコにおける高ナトリウム食は、尿中へのカルシウム排泄量を増加させるとの報告があります。一方で、高ナトリウム食によりカルシウム排泄量は増加したが、尿中カルシウム濃度は低下するとの報告や、通常食と比較してカルシウム排泄量に有意差はなかったとの報告もあるようです。
このように、食事中のナトリウムが尿中へのカルシウム排泄量ならびに尿中のカルシウム濃度にどのような影響を与えるかについてはさまざまな見解があります。加えて、シュウ酸カルシウム尿石症の既往症や好発種での研究がほとんどないのが現状です。
そのため、既存のデータからは、ナトリウム摂取量が尿中カルシウム濃度に及ぼす影響は決定的ではなく、シュウ酸カルシウム結石に対する高ナトリウム食の有用性については賛否あります。
まとめ
健康なネコにおいて高ナトリウム食による報告は多数存在するものの、シュウ酸カルシウム尿石症の既往歴あるいは好発種での研究がほぼないため、シュウ酸カルシウム尿石症おける高ナトリウム食の有用性に関して賛否があるのが現状です。シュウ酸カルシウム尿石症の既往歴あるいは好発種での研究が進み、診察の向上に繋がることを願います。
獣医師B
【参考文献】