AHS(米国犬糸状虫学会)が3年に1度開催するシンポジウム(2022年)で発表された、新しい研究および付加された臨床経験に基づいて、新たに2024年に改訂されたガイドラインのポイントをまとめました。
AHS(米国犬糸状虫学会)とは
AHSは、1974年のフィラリアシンポジウム中に設立された、米国犬糸状虫学会(American Heartworm Society)という組織です。各国の専門家が集まり、フィラリア症の予防や治療などのガイドラインを提唱しています。
予防法のポイント
ガイドラインでは「FDA承認の犬糸状虫予防薬の通年投与」を推奨しています。これは、投薬遵守の強化と確実性を重んじた予防法です。日本では、多くの場合でHDU(Heartworm Development heat Unit:蚊の体内でフィラリア幼虫(ミクロフィラリア)が成熟するために必要な積算温度の単位)を用いて犬糸状虫予防薬の投薬期間を設けているという点で異なります。近年の温暖化による蚊の活動期間の延長や、都市部での微小環境の影響も考える必要があります。
また、「蚊忌避作用のある外部寄生虫駆除剤の使用」や「蚊が活発に活動する時間帯にイヌを野外に出さない」など、ベクター(蚊)制御も重視しています。大環状ラクトンに耐性を持つ犬糸状虫株の発現を考えれば、日本でもベクター制御を考慮すべきかもしれません。
検査法のポイント
ガイドラインでは「7ヵ月齢以上のすべてのイヌに対して、年1回の抗原検査とミクロフィラリア検査の両方を行うことを推奨」しています。これは、日本の多くの獣医師も実践していることと推察されます。
治療法のポイント
成虫殺滅法として勧められているのは、ドキシサイクリンの投与、大環状ラクトン予防薬を投与したのちメラルソミンを投与する方法で、プロトコールも記載されています。代替療法としての大環状ラクトン予防薬単独での長期投与は推奨していません。
今回の改訂では、非ヒ素アプローチ(combination slow-kill法)についても記載されていました。
適応としては、
・以前にメラルソミンにアナフィラキシー型の反応を起こしたことがあるイヌ
・犬糸状虫感染症に関連しない他の疾病によって重篤な予後を抱えているイヌ
とあります。
このプロトコールでは、ドキシサイクリン、大環状ラクトン予防薬、活動制限の3点が必ず伴わなければなりません。大環状ラクトン予防薬は、イベルメクチンとモキシデクチンを評価しています。ミルベマイシン、セラメクチンは評価していません。
まとめ
犬糸状虫の大環状ラクトン予防薬に対する耐性も散発的に報告されていますが、犬糸状虫症に感染してしまうのは不適切な投薬によるものが多いといえます。AHSでは予防薬の投薬遵守を目的に通年投与を推奨します。一方、日本では予防薬の金額負担などの面からまだ一般化していません。
しかし犬糸状虫症に感染してしまった場合、日本では治療の選択肢は限られています。現在メラルソミンの国内販売はなく、犬糸状虫成虫の外科的摘出に使用するフレキシブルアリゲータ鉗子も手に入りません。日本では、大環状ラクトン予防薬とドキシサイクリンによる代替法(combination slow-kill法)しか選択できないので、犬糸状虫症予防薬の通年投与やベクター制御の導入も一案となるでしょう。
獣医師A
【参考文献】
American Heartworm Society Canine Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Management of Heartworm (Dirofilaria immitis) Infection in Dogs Revised2024
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