シニア期の犬と猫の健康診断における新しい評価法

イヌ・ネコの平均寿命が延びるにつれ、シニア期の健康管理はますます重要になっています。
加齢に伴う腎機能や筋肉量、栄養状態の変化をより詳細に評価するため、従来の血液検査や画像診断に加え、新たな評価法が取り入れられてきています。
この記事では、最新の研究をもとに、シニア動物の健康診断で注目すべきポイントを紹介します。

シニア動物の健康診断の重要性

シニア期のイヌやネコは、慢性腎臓病(CKD)やサルコペニア、慢性炎症など、加齢に伴う疾患のリスクが高まります。これらの疾患は初期症状が現れにくく、発見が遅れると進行しやすいため、定期的なスクリーニングが重要です。

加えて、早期診断によって管理可能な疾患が多いことからも、従来の血液検査や画像診断に加え、新たなバイオマーカーの活用が注目されています。

最新の評価法

最新の評価法には、以下のようなものがあります。

1. 腎機能評価

SDMA(対称性ジメチルアルギニン)は、従来のクレアチニンにくらべて腎機能の低下を早期に検出できるバイオマーカーです。SDMAは糸球体濾過率(GFR)の変化を反映し、筋肉量の影響を受けにくいため、特に高齢動物において有用です。

2. 筋肉量評価

加齢に伴う筋肉量の減少(サルコペニア)は、運動能力の低下や慢性疾患の進行と関連しています。
体脂肪を評価するBCS(ボディコンディションスコア)だけでは筋肉量の状態を判断するのは難しく、実際に過体重であるにも関わらず筋肉が減少している場合もあります。
筋肉量を評価するため、近年ではMCS(マッスルコンディションスコア)が広く知られるようになってきました。
MCSでは、視診、側頭骨・肩甲骨・腰椎・骨盤の触診によって4つのスコアで筋肉量を評価します。BCSや体重などその他の情報と合わせ、定期的にチェックをすることで筋肉量の減少を早期発見し、対処することが可能です。
また、クレアチニンのメチル化物であるD3-クレアチニンは体内のクレアチニン動態を評価し、筋肉量の変化をより正確に把握できるマーカーです。このマーカーを用いれば、サルコペニアの進行を早期に検出し、適切な栄養管理や運動療法の導入に役立つと期待されています。

3. 栄養状態評価

シニア動物の栄養状態は、消化吸収機能の低下や慢性疾患の影響により不安定になりがちです。アルブミン濃度の低下は、慢性炎症や栄養不良の指標となります。

また、亜鉛や鉄などの微量元素の欠乏は、免疫機能の低下や皮膚・被毛の異常と関連するため、定期的な測定が推奨されている栄養素です。

健康診断における評価手段

SDMA

近年では、院内検査機器である「Catalyst SDMA(IDEXX)」や「Vcheck V200(アークレイ)」などによる迅速な測定が可能となり、より早く腎疾患を診断できるようになりました。
特に、Vcheck V200は小型の検査機器でありながら、SDMAを含む多様なバイオマーカーを測定できるため、臨床現場での有用性が高いと言えるでしょう。

免疫反応測定装置 Vcheck V200

MCS(マッスルコンディションスコア)

MCSについては、WASAVA(世界小動物獣医師会)のWebサイト上でスコアチャートと動画が掲載されています。その他、BCSやカロリー必要量などのツールもまとめて提供されています。
参考URL: https://wsava.org/global-guidelines/global-nutrition-guidelines/

まとめ

シニア動物の健康管理には、従来の診断法に加え、腎機能・筋肉量・栄養状態の総合的な評価が必要です。SDMAをはじめとする新たな指標を活用し、適切な健康管理を行えば、シニア動物が質の高い生活を維持できます。

最新の検査機器を取り入れた包括的な健康診断の実施は、より良い獣医療の提供につながるでしょう。

獣医師C

■参考文献
1) Freeman, L. M., et al. (2020). “Nutritional assessment in aging dogs and cats.” J Am Vet Med Assoc. 257(5): 504–514.
2)IDEXX Laboratories. “Advancements in Senior Pet Health Screening.” https://www.idexx.com
3)arkray. “Vcheck V200 and SDMA measurement.”

免疫反応測定装置 Vcheck V200

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