イヌにおいて、副腎皮質機能低下症(アジソン病)は稀であるものの、重篤な症状を引き起こす内分泌疾患です。初期には、元気消失や食欲不振・嘔吐・下痢などの非特異的な症状を呈するため、他疾患との鑑別が困難で、診断が遅れがちです。そこで今回は、ガイドライン(2023 AAHA Selected Endocrinopathies of Dogs and Cats Guidelin )を踏まえ、アジソン病を疑う際の診断指標や検査のポイントを整理していきましょう。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは
副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは、副腎皮質から分泌されるグルココルチコイド(コルチゾール)および、鉱質コルチコイド(アルドステロン)の分泌が低下する疾患です。
グルココルチコイドと鉱質コルチコイドの両方が不足する定型アジソン病と、グルココルチコイドのみが不足する非定型アジソン病があります。
鉱質コルチコイドが不足すると、ナトリウムの再吸収やカリウムの排泄が正常に行われず、低ナトリウム血症・高カリウム血症による循環不全や不整脈を引き起こす可能性があります。
一方で、非定型アジソン病では、鉱質コルチコイドの分泌が保たれることもあり、電解質異常が見られないため、診断には一層の注意が必要です。
診断に役立つ検査指標とポイント
現在、アジソン病の診断においては、以下のような検査項目が注目されています。
・血清ナトリウム(Na)/カリウム(K)比(Na/K比)
Na/K比が0.27未満である場合、高感度・高特異度でアジソン病を示唆します。
電解質異常は迅速な判断に有用で、ショック症状がある場合にも活躍します。
ただし、下痢や腎疾患でも異常値を示すことがあること、非定型アジソン病では電解質異常を伴わない可能性があることから、単独での診断には注意が必要です。
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・ACTH刺激試験
アジソン病の確定診断に用いられるスタンダードな検査です。合成ACTHを静注後、1時間後の血中コルチゾール値を測定します。検出下限以下(<1 µg/dL)であれば、アジソン病が強く疑われます。
Na/K比に異常が見られない場合でも、臨床症状やACTH刺激試験の結果で診断されることがあります。この場合、グルココルチコイドの補充だけで治療可能ですが、経過観察が重要です。
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まとめ
副腎皮質機能低下症は、命に関わる病態である一方、非特異的な症状により見逃されやすい疾患です。診断が遅れないよう、特にショック様症状を呈するイヌに対しては、迅速な電解質評価とACTH刺激試験の実施を検討することが欠かせません。日常臨床においても、低Na・高Kの組み合わせに気づいたら、本疾患を疑う習慣を持つことで、早期発見につなげることができるでしょう。
獣医師E
【参考資料】
2023 AAHA Selected Endocrinopathies of Dogs and Cats Guidelines
https://www.aaha.org/resources/2023-aaha-selected-endocrinopathies-of-dogs-and-cats-guidelines/
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