【東京大学 桃井教授】動物の新型コロナ感染症の現状について

この1年間、新型コロナウイルスで生活がずいぶんと変わってしまいました。飲み会もほぼありませんでした。研究も進んでこのウイルスについての理解も深まりました。しばらくはまだwith コロナでしょうが、獣医療でも新型コロナを過度に恐れる必要はなくなってきたように感じます。

動物の感染状況

私たちも早期に動物用のPCR検査系(ヒトと同じです)を立ち上げ、呼吸器症状の動物たちを中心にPCR検査を実施してきました。限られた数ですがいまのところ来院した動物でPCR陽性の症例は出ていません(2021年4月時点)。しかしながら新型コロナウイルスはイヌやネコに感染することがわかっています。通常の生活では、感染した飼い主さんから同居する動物に感染します。ネコだけではなくイヌも感染します。ネコの方が感受性が高く、実験感染ではネコからネコへと感染することが知られています。

ところで人間が感染して入院してしまうと同居している動物の世話ができなくなってしまいます。東京都などでは感染者のための動物同伴の宿泊施設があるようですが、ほとんどの地域にそのような施設はありません。保険会社のアニコムさんが、社会貢献の一貫として感染者の方の動物を無償でお預かりするStayAnicomプロジェクトを実施されています。すばらしい取り組みだと思います。2月に配信された第17回日本獣医内科学アカデミー学術大会では、アニコム先進医療研究所の石原先生が実際にお預かりした動物の中に感染例がいたことを報告されていました。

実際にどれくらいの動物が感染したのか、正確な数はわかりません。私たちはこれまでに首都圏の一般家庭で暮らしているイヌ400検体以上、ネコ200検体以上で抗体検査を行ってきました。動物での新型コロナ抗体検査は非特異反応などもあり評価が難しいですが、中和抗体陽性で最終的に感染したことが確実な動物はイヌ1頭だけでした。東京でも人間の抗体陽性率は1%いっていないと思いますが、陽性の人からウイルス感染してしまう動物はより少数なのだと思われます。

動物への病原性

現在のところ、新型コロナウイルスのイヌやネコへの病原性は低いようです。実験感染ではネコに感染は成立しますが、症状はなかったとされています。ただ症状がなくても病理組織的には異常所見がみられることが報告されており、状況によっては発症することを考えた方がよさそうです。実際に自然感染例で症状を示していた動物も報告されています。非常にまれだとは思いますが、呼吸器症状のネコで、飼育者の状況などから新型コロナウイルス感染が疑われる場合には、検査を考えてもいいかもしれません。

検査について

残念ながら私たちは輸送の問題があり、他の動物病院からの検体を受け付けておりません。みなさんが日頃利用されている動物検査機関も現在PCR検査を受け付けていないと思います。ここで再びアニコムさんですが、条件付きで一般動物病院からのPCR検査を受託しているようです。

最近、東京大学医科研究所の前村先生に教えていただいた論文があります。英国でコロナの変異株に感染したネコで、呼吸器症状ではなく心筋症に関連した異常がみられたそうです。まだ速報なので今後の確認が必要だと思います。しかしウイルスは今後も変異していくでしょうから、動物への病原性も悪い方へ変わっていくことがあるのかもしれません。

治療薬について

人の治療に関連して2つの抗ウイルス薬に期待が集まりました。レムデシビルとファビピラビルです。これらの薬剤はもともと新型コロナウイルス用に開発された薬剤ではなく特異性は高くないです。つまり幅広いウイルスに効果があります。レムデシビルの類似体は少し前にFIPに有効という論文が発表されています。これからもいくつかの抗ウイルス薬が開発されてくるでしょう。それらの薬剤を獣医療で使用させてもらえるかわからないですが、新型コロナを契機にFIPに有効な薬剤も開発されるといいなと思います。

東京大学 桃井康行

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